指折り数え

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 藤原幹恵は専業主婦だ。それは主人の秀正に十分な収入があったことと秀正に生活力が皆無だったため、妥協という形で割り振られた役職だった。幹恵はもともと事務員として社会生活を送っていて、勤続もまもなく10年といったタイミングで秀正と出会った。年齢の部分もあり短期間の交際から結婚に至っている。しかし、結論を急いだ理由の一つである子どもはまだなかった。朝、目を覚ました幹恵は主人が帰っていないことに気づいた。主人は忙しい身で職場に泊まることも少なくなかった。けれど連絡なく泊まったのは今回がはじめてかもしれない。主人の仕事は他の会社へシステムの営業をすることと聞いている。主人は何度か転職して今の職に行き着き定着したようだったが、前職のことなどはあまり聞いていない。秀正は幹恵よりも五つ上だが表情が幼く、年齢差をあまり意識させない。幹恵は秀正の表情からその多忙さが伺い知れず、仕事に生きていて、その多忙さを楽しんでいるのか、内心を見せることができずにいるのか判別がつかなかった。
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