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「もしもし」
二回目の電話は夕方になってからだった。
「現金は用意できたか?」
幹恵は背後に待機する警察に目で合図した。警察は音声を共有している。予定された文言だった。
「間に合っていません」
「ではまた明日連絡する」
電話が切れた。幹恵は驚き、そして怯えた。
『これから毎日取引が終わるまで藤原秀正の指を一本ずつ折っていく』
警察はあわただしく動きはじめ、幹恵に歩み寄ってくる者もいたが掛けられた言葉を認識できずにその場にへたりこんだ。
警察へはすぐに連絡した。自分で対応できるキャパの話ではないと判断できた。もちろん犯人に察知されないよう依頼した。連絡方法は通話が盗聴されないか、家自体に盗聴器がないか不安だったので外出して最寄り駅の駅構内で駅員に事情を説明して電話させてもらった。尾行には注意したつもりだったが不安は残った。自宅へ戻る際には私服警官が親族のふりをしてタクシーで一緒に帰る形となった。犯人から指摘があった際には、身代金の用意のためと応える手はずだった。
警察から身代金の用意が可能か事前の確認があった。幹恵は貯金を全て合わせても足りないと答えたが、その時たしか秀正が株として所有している資産に思い至った。規模はわからないがそこを充当すれば足りるかもしれない。
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