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ベルトコンベヤの上を、棺おけを縦にしたような大きな箱が延々と流れていく。
指示される食材を棚から取ってバットに詰めて、棺おけのような保冷ケースに放り込む。
冷凍の肉の塊だとか、ソースのパックだとか。毎日毎日、延々と。
ただひたすらに詰める日々。
保冷ケースはその店舗ごとに分かれているから、ノロノロしていると、積み込まなければならないケースはコンベヤの上をどんどんと流れていってしまう。
間に合わない時コンベヤを止める紐が上からぶら下がっているけれど、それを使う人はあまりいない。
紐を引いてしまうと、そのレーンの人全ての作業が止まってしまうからだ。
コンベヤを止めた時、聞こえない筈のレーンの一番端にいる人のため息さえも聞こえてくるような気がするのだ。
——あー、アイツのせいで今日も終了時間が遅くなる。
「謙介、今度の休みカラオケ行こうぜ」
冷凍ピラフの段ボール箱を保冷ボックスに放り込みながら声をかけてきたのは、契約社員の龍司だ。
「いいね」
オレは笑顔を作りながらそう答える。
本当はカラオケはあまり好きじゃない。
結局、オレはここでも相手が求める答えばかりを用意していた。
ただ詰めるだけの毎日。自分ではなくても他の誰でもできる仕事。
同じ替えがきく日々送っていながらも、龍司はプライベートな時間を楽しんでいる。
オレと同じく先の事なんて何も考えていなかったけれど、龍司はちゃんと龍司の人生を生きていた。
じゃあ、オレは誰の人生を生きてるんだろう……。
オレのたどっている答えは誰のものなんだろう。
視線の先では、コンベヤを止める為の紐が、荷物を積み込む振動でゆらゆら揺れている。
その先には指が数本入るくらいの大きさのプラスチックの白い輪っかがつけられている。
それは、どう考えても首など入らない幅だったけれど、オレには何だか自分の首をそこに突っ込んでぶら下がる為にあるように見えて仕方がなかったんだ。
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