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「あれっ?」
雑多な人達が行き交う駅前通りを、白い花びらがヒラヒラと舞ったような気がしてオレは足を止めた。
後ろから来たスーツ姿の男性が、勢い余って肩に軽くぶつかってくる。
「すみません……」
オレの答えに、男性は怪訝そうな表情をしながら通り過ぎて行った。
多分見間違いだろう……。こんな街中に梅の木なんてある筈がない。
野々花のウェディングドレスに見えたあの花が、梅の花だと知ったのはいつの事だっただろうか。
白い花びらを見るとつい思い出してしまう。オレの人生で一番キラキラと輝いていたあの頃の事を……。
東京の会社といってもオレが配属されたのは、西よりにあるMDセンターというところだ。
それでも数駅行けば大きな商業施設があり、こうして買い物は近場で済ませる事ができる。
せっかくだから何か食って帰ろう。
色々と考えた末にオレが選んだのは、チェーン展開している庶民派のカフェ。
田舎者の男が一人で入れる店なんてそんなものだ。
それでも、店頭に張られているポスターの、ローストビーフサンドがとても美味そうに見えた。
自動扉を抜けると、ふわりと暖かな空気に包まれた。
耳に心地良いBGMと香ばしいコーヒーの香り。
そして……。
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