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オレはローストビーフサンドにかぶり付きながら、忙しそうに動き回る野々花の姿をぼうっと眺めていた。
後から後からやって来る客に明るくハキハキと応対する彼女は、小四の頃と変わらずキラキラと輝いている。
オレが過去に置いてきてしまったあの眩しい世界の中に彼女はまだいるのだ。
オレは食い終わった食器類を返却口に片付けると、野々花が常連客と思われる男性と楽しげに会話をしている隙に店を出た。
ひやりと首筋を撫でていく北よりの風に、オレは思わず舌打ちをする。
野々花に見られないようにと急いで店を出た為、道を間違ってしまったようだ。
スマホの地図アプリで確認してみると、駅に戻るにはさっきのカフェの前を通らなければならないようだった。
仕方がないので、少し遠回りしてから駅に向かう事にする。
オフィスビルの間を抜け、再び周りが駅前の賑やかな雰囲気に包まれてくるとオレはホッと息をついた。
スマホを取り出そうとズボンのポケットに手をやったその時だった。
どこか懐かしいようなタカタカと小さな足が地面を蹴る音が聞こえてきた。
「謙ちゃん!」
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