BL団地妻シリーズー報復は蜜の味ー

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「…でさ、…が…で」 「…まじ…」 「…より…じゃ…ですか」 はじめの頭の上で複数の人間が会話をしている。 内容は全く聞き取れないがとにかくやかましい。 またキャビンクルー男が、寝ているはじめの事などおかまいなしに大音量で動画でも流しているのだろう。 本当にデリカシーのない男だ。 「…ねぇ…ちょっと、うるさいんだけど」 はじめは苛立ちながら重たい瞼を持ち上げた。 「お、ようやくお目覚めみたいだな」 はじめを覗きこむようにひょっこりと現れた顔にぼんやりしていた視界が一気にクリアになる。 驚いたのはその顔がキャビンクルーの男ではなく犬塚省吾だったからだ。 そこでようやく理解した。 ここがはじめの家ではない事と、いつのまにか眠ってしまっていた事を。 数時間前、はじめは犬塚と一緒に作った鍋をつつきながら勧められたビールを飲んだ。 帰れなくなるからと最初は頑なに断っていたのだが押しに負けてしまい、一本だけ許してしまった。 結局二本、三本と飲んでしまいすっかり酩酊してしまったらしい。 最悪だ。 元夫の家で酔っ払って寝るなんてかなりカッコ悪い。 「ひ、ひとんちで寝てごめん。すぐ帰るから」 はじめは慌てて立ちあがろうとした。 だが、すぐに腕を掴まれベッドに引き戻される。 「まあまあ落ち着けって」 犬塚はそう言うとはじめの隣に座り、肩を組んできた。 ふわりと香る柔軟剤の匂いが懐かしい。 犬塚が昔使っていた香水の匂いのようだ。 「な〜んも問題ねぇから、な?」 低い声で囁かれて背筋を何かが駆け上がっていく。 犬塚の様子が妙だ。 距離が近いし、雰囲気もさっきまでと違う。 「お前が寝てる間に友人を呼んだんだ。ほら、見てみろ。お前もよーく知ってる顔だろ?」 何が何やらわからないはじめは言われるまま顔を上げた。 「…え?」
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