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はじめの目の前には男が二人テーブルを囲むように座っていた。
二人ともはじめが犬塚とともに作った鍋をつついている。
驚いたのはそこではなく、二人がはじめの知っている人物だったからだ。
「相変わらず君は寝言がひどいな」
鍋の湯気で曇った眼鏡を丁寧に拭いているのは猿渡俊介。
犬塚の次に結婚して、離婚した二番目の夫だ。
「そういえば寝言もだけど歯軋りもすごいんですよね、はじめくんは」
だよね?そう言ってはじめに微笑みを投げかけてきたのは雉間明。
彼は猿渡の次に結婚して離婚した三番目の夫である。
はじめはしばらく言葉を失い、茫然としていた。
なぜ犬塚の家に猿渡と雉間がいるのか全くもって理解できなかったからだ。
犬塚は別として、猿渡と雉間には特に元夫の名前や素性を話した事がない。
もちろん前の夫はどんな男だったか聞かれたりはした。
だがその度に、新しい恋に過去は必要ないでしょう?と誤魔化してきた。
それはもちろん嘘ではないのだが、別れた理由を理解してもらえるか不安だったし、何より自分の逃亡癖を察知されそうで嫌だったのだ。
だからこの状況には声を失うほど驚いている。
元夫が三人セットでいるなんて。
なんで…とようやく口を開きかけた時。
犬塚が耳元でくすりと笑った。
「めちゃくちゃ動揺してるな。お前の言いたいことはわかるぜ。なんで元夫が全員集合してるのか、だろ?」
こくりと頷くと、犬塚はそうだよなぁとくすくす笑いながらはじめのねこっ毛を指先でいじり始める。
その余裕のある態度から、これが全部仕組まれたことなのだと察した。
だが、まだ三人がどうやって知り合ったのかわからない。
「俺たちが知り合ったのは偶然だ」
猿渡が眼鏡をかけながら話を切り出す。
「ある晩とあるバーで飲んでたらそこにたまたま犬塚と雉間もいたんだ。全員お一人様だった事もあって一緒に飲みはじめたわけだ。それでまあするだろ?お互いの身の上話。そしたらあら偶然、全員妻に逃げられた経緯あり」
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