263人が本棚に入れています
本棚に追加
今の夫の仕事はキャビンクルー。
制服姿の彼に一目惚れしたのは、傷心旅行という名目で向かったロサンゼルス行きの飛行機の中だった。
営業スマイルだとわかっていても向けられるとびきり爽やかな笑顔や丁寧な所作。
夢中になったはじめはなんとか彼に近づこうと、特に目的もないくせに彼が搭乗する飛行機に乗りまくった。
今考えるとストーカー紛いの行動で通報レベルだが、はじめの情熱は彼に伝わったらしく見事ゴールイン。
最近新婚一年目を迎えたばかりだ。
だが、結婚してみて気づいた。
キャビンクルーとしての彼は飛行機の中だけであって、家庭ではそんな面影は全く消えてしまう事に。
もちろん家は寛ぐ場所であり、忙しく飛び回る彼の拠り所でもある。
しかし結婚してからというもの、彼は仕事を理由にはじめに甘えっきりで何もしようとしないのだ。
炊事洗濯掃除はもちろんだが、脱いだ衣服はそのまま、朝起こすのもはじめ頼り、おまけにゴムやローションまではじめに用意させる始末。
セックスは月に一度あればいい方だし、しても前戯おざなりの自分勝手なもの。
とにかく、はじめの気持ちなど一切考えない身勝手男なのだ。
恐らく彼にとってはじめは妻ではなく、自分の言うことを何でもきいてくれる便利な家政婦なのだろう。
最初の頃はキャビンクルーという職業柄そうなっても仕方ないのかもしれないと譲歩していたが、最近はもう顔を見るのも苦になり始めている。
こうして友人に話をしている事でこれまでなんとか気持ちを誤魔化してはいた。
だが今日、離婚というワードを自ら口にした瞬間その欲望がむくむくと膨れ上がってきた。
逃げたい…
この地獄のような家政婦扱いから。
「おーい、はじめ?大丈夫?なんか悩みあるなら聞くよ?」
いつのまにか考え込んでいたらしく、秋乃が反対側の席から覗きこんできた。
「あ、バツ三の事なら誰にも言わないって!ね!」
張りのあるしっかりとした声で言われて、また周りの視線が集まってくる。
天然な友人に苦笑いを浮かべながら、はじめはバツ四つ目の野望を胸に抱いたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!