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それから一週間経っても、離婚問題は解決する気配はなかった。
男は国際線の客室乗務員のため三日間は帰ってこないし、帰ってきても寝てばかり。
起きてきたかと思えばぼけ〜っとテレビやスマホを見ているばかりでまるで話にならない。
もうこうなったら勝手に家を出て、男がイエスと言うまで帰らない戦法をとってやる。
はじめは密かに決意すると、ロングフライトへと旅立った男のいぬ間に不動産屋へと向かった。
近場だとあの男に居場所がバレて面倒なことになりそうなので、電車に乗り二つ先の駅前にある不動産屋にした。
平日とあってか、店内は一組の客しかいない。
とりあえず敷金礼金なしの即入居可能な部屋はないだろうか。
壁に貼ってある色んな間取りの部屋のチラシを見入っていると背後から声をかけられた。
「いらっしゃいませ。お手伝いしましょうか」
「あ〜すみません、このあたりで敷金礼金なしで即入居できる部屋ってあります?」
言いながら振り向いたはじめの目に、見覚えのある顔がうつる。
「え?」
「あれ、はじめ?」
彫りが深く男らしい精悍な顔立ち。
一度見たら必ず惹きつけられる異様な魅力を放つ男。
元夫…正確に言うと一番目の夫、犬塚省吾だ。
しかし、はじめの知る犬塚は歌舞伎町で人気ナンバーワンのホストだったはず。
明るかった髪は黒々しているし、スーツも地味なビジネススーツだ。
「なんでここに…」
「ああ、俺ここで働いてるから」
犬塚はスーツの胸ポケットについた名札を見せるとにかっと笑う。
「働いてるってホストは?」
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