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柊丈一郎の心変わり
眼を覚ました俺を迎えてくれたのは白くて綺麗な景色だった。俺は病院のベッドの上にいた。緊急手術で一命を取り留めたらしい。身体を動かそうとしても痛みとテーピングで固定されていることで動かせなかった。
俺が起きたことを看護師が確認すると部屋を出て行った。すぐに医師と青年がやってきた。青年は腫れ上がった眼で涙を絶え間なく流して、ありがとうと何度も言っていた。深く頭を下げて感謝を伝えてくれた。青年が助かったことを知って俺が撃たれたことは無駄じゃなかったのだと思って嬉しかった。
しばらくして警察官がやってきた。三件の罪を告白した。俺は刑務所に入れられるだろうと思っていたが、予想に反してそうはならなかった。
一件目の犯罪、駄菓子屋の万引き。俺が警察官にそのことを話してもそんな通報は受けてないと言われた。なぜ店主が通報しなかったのか俺にはわからなかった。
二件目の犯罪、商店街の尺玉の泥棒。警察官に中に入っていたものが非合法薬物にすり替わっていることを言われて俺は声が出ないほど驚いた。尺玉を盗んだ時に追ってきた泥棒の高柳は青年が全てを話したことで捕まったらしい。
三件目の犯罪、ギャングの頭目の殺人未遂。ギャングの頭目には生死を問わず、懸賞金五百万円がかけられていたことを知って、またも驚いて開いた口が塞がらなかった。頭目を殺しても罪には問われないらしい。ギャングと対峙した時に警察官が来たのは青年が呼んだからだと教えられた。
俺が最も気にしていたダークヒーロー賞について尋ねると、副村長が村長の評価を下げるために設立された内容がない嘘の賞だと明かされた。それを聞いて俺は全身の力が抜けて、眼から涙が溢れた。涙がシーツをじわりじわりと濡らしてゆく。俺が必死にやってきたことは何だったのか。
しかし警察官はそこまで説明すると朗らかに笑った。
「ダークヒーローになれなくても、あなたは村の正義のヒーローです!」
警察官の言葉に耳を疑った。どういうことだろうか。
「俺が正義のヒーロー?」
警察官が捲し立てて一気に喋った。
「駄菓子専門の万引き王の斎藤は先にあなたがチョコを万引きしたことで、自分の父親の不正を告発して村の治安は助かりました。尺玉が盗まれたことで村の人達が非合法薬物の毒牙にかからなくて助かりました。ギャングの頭目を殺しに行ったことで青年の命は助かりました。動機は不純ですが、あなたがやったことは全て結果的に村を救ったことです。ですから、あなたは村の正義のヒーローなんです!」
俺は急な展開が飲み込めなかった。俺がしたことはいいことだったのだろうか。
「俺は刑務所に入らなくていいのか?」
「正義のヒーローを刑務所に入れることなんてしませんよ。しかし相手がギャングの頭目だったので実行しても罪には問われませんが、そうでなければ殺人未遂の件も含めて犯罪は許されないことです。これからは犯罪を決してしないことを約束してください」
俺が警察官の眼をしっかり見て約束すると、警察官は嬉しそうに深く頷いて優しい笑顔を向けてくれた。尺玉の在処を警察官に問われて俺の家の住所を教えると警察が尺玉を押収した。商店街と駄菓子屋にお詫びの電話をするとむしろ感謝された。チョコは返さなくていいと店主に言われた。
駄菓子専門万引き王の斎藤は自ら警察に行って罪を告白したが、駄菓子屋の店主が訴えるつもりはないと言うので厳重注意で済んだ。ギャングの頭目の工藤は殺人などの複数の重大な犯罪に関与していることと、反省の色が全く見れないことから厳正な裁判の末、死刑となった。
また警察官から青年が命を狙われる結果になった経緯を聞いた。そして俺の犯罪が発端だということが判明して、青年に深く謝ったが穏やかな表情で命の恩人に変わりないと言って許してくれた。
後日、怪我が治ってから警察署に呼ばれて赴くと感謝状を贈られた。村は俺をヒーローとして迎え入れてくれた。
俺は正義のヒーローになるのも悪くないなと思った。これからは村のために正義のヒーローとして頑張ろうと誓った。
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