柊丈一郎の願望

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柊丈一郎の願望

 俺は葉隠村で一番の悪党になりたいと思った。この村では今年から悪党を讃えるダークヒーロー賞というのが設立された。俺はその賞を目指していた。  期限は一ヶ月。それまでの罪は全く関係なく、一ヶ月の間に悪行をした件数と難易度によって優勝者にその賞が贈られる。  優勝者にはダークヒーローの栄誉と大金が進呈される。賞金は十億円と公表されていた。  村には小さなギャング、天才泥棒、駄菓子専門万引き王がいた。奴らの噂は村に流れてくるが、まだ警察に捕まったことはなかった。  奴らよりも目立つ悪さをする必要があった。それぞれの悪党がする犯罪と同じ犯罪を行おう。三件の悪行で優勝できると踏んでいた。  刑務所に入れられる覚悟で賞を取りに行こう。俺はこれからのことを思うと楽しくなりそうで、鼻の穴を膨らませ歯を剥き出しにして二ヒヒと豪快に笑った。  まずは簡単な犯罪から実行しようじゃないか。少考の末、一番簡単な万引きをしてみることにした。  駄菓子屋に入って数量限定のチョコを万引きした。ちょうど最後の一つだった。駄菓子屋の店主にじろりと見られて眼が合ったが何も言われなかった。  よし一つ目は成功だ。この流れで泥棒もしてみよう。金額よりも人々が困る物を盗もう。  葉隠村の商店街で行われるお祭りで、今年は初めて花火の花形と言われる大型の尺玉が使われることになった。尺玉は八点五キロもあるのでトラックで運び出した。家に持ち帰ろうと運転していると後ろから追いかけてくる車があった。なんとかギアを上げて振り切った。商店街の連中だろうか。  商店街はこれでとても困るだろう。祭りを楽しみにしていた村の人もかわいそうだが仕方ない。俺の手にかかればこんなものは朝飯前だ。
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