柊丈一郎と青年の出会い

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柊丈一郎と青年の出会い

 俺は二つの悪行をして気分が良かった。腹ごなしに葉隠村の辺境にひっそりと佇んでいる廃れた喫茶店に入った。  カウンターに座ってサンドイッチを食べた。すると後ろの席の二人客の話し声が自然に聞こえてきた。  顔に刃物の傷がある年配の男が下を向いて泣き出しそうな青年に怒っていた。青年が涙声を飲み込みながら懸命に喋っている姿が印象的だった。頑張って欲しいと応援したくなった。 「おまえさあ。このままでいいと思ってるのか? ボスがカンカンだぞ」 「僕のミスなのはわかっています。ミスを挽回する働きをします。それで許してもらえるでしょうか?」 「どうするつもりか知らないが、まとまった金が手に入れば、命だけは助けてもらえるかもな。死ぬ気でやれ」  俺が聞いているのに気づいて、年配の男に眉を顰めて睨みつけられた。二人は不穏な空気を残したまま店を出て行った。健気な青年が無事なようにと祈った。  俺はいけないものを見てしまったかのような不安に煽られた。食べ終わると店を後にした。  最後はギャングになって殺人をしよう。世の中で最も悪いことと言ったらやはり殺人だろう。ギャングの頭目は殺人もするらしい。  俺は今まで万引きも泥棒もしたことがなかったが、賞のためにと痛む心を抑えながらやることができた。しかし殺人は一線を画した大犯罪だ。俺は悩み苦しんだ。自分の欲のために人を殺していいのだろうか。罪のない人を殺してしまっていいのだろうか。  そこで俺は首を捻って思案した。罪がある人間なら殺してもいいのではないだろうか。相手がどんな悪人でも殺人は悪いことで、俺は刑務所に入らなければいけない。しかし善人を殺すより悪人を殺す方が心は痛まない。  俺は人殺しになる覚悟でギャングの頭目を殺すことにした。頭目の目撃証言は警察が発表していた。目撃された場所まで行ってみることにした。
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