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柊丈一郎の介在
俺は頭目の目撃証言がある葉隠村の僻地の深い森に入った。雑木林が鬱蒼と茂る中にギャングの隠れ家があった。
辿り着くとギャングの頭目らしき男が喫茶店で見かけた青年に銃口を向けていた。青年は両手を挙げて涙を流しながら命乞いをしていた。青年の隣で年配の顔に傷のある男も深く頭を下げて懇願していた。
俺は頭目を殺すよりも可哀想な青年を助けたいと思って声を張り上げて青年の前に出た。拳銃を持った男と俺は対峙した。
「やめろーーー!」
「誰だおまえは? 二度も失敗した奴を庇うならおまえも一緒に殺してやる」
俺は背後にいる青年の盾になりながら声を絞り出した。拳銃に怯えて足が竦むのを必死に堪えた。
「俺の後ろにいる青年の名前も俺は知らないが、喫茶店で懸命に頑張っているのを見た。殺さないでおいてくれ!」
「おまえは名前も知らない男を助けるために死ぬのか。いいだろう」
その時だった。林の中からやめなさいと森を揺るがすような大きな声が聞こえた。
弾丸が鋭い金属音とともに発射されて、俺の肩が撃たれた。獰猛な獣に噛み砕かれたような痺れる痛みが肩から全身に走った。
膝から崩れ落ち地面に両手をついてうつ伏せに倒れた。肩から血が溢れて服と地面を赤黒く染め上げていく。身体が地面に張り付いて全く動けない。死ぬ恐怖で心がざわざわと震える。
肩が燃えるように熱くそれに対して全身は凍えるように冷たくなっていった。俺はここで死ぬのか。青年を助けることはできたのだろうか。呼吸が浅く視界が狭くなる。状況を確かめたい。土にまみれながら顔を上げて眼を凝らす。
林の中から人々の足音が聞こえると一瞬にして三十人以上の警察官が俺たちを取り囲んだ。
「工藤銀二。殺人未遂の現行犯で逮捕する。おとしなくしなさい」
男はなおも抵抗していたが、多勢の警察官にすぐに取り押されられた。警察官の二人が俺に声をかけながら、担架で俺を運んでくれた。俺は痛みに呻きながら呼吸をしているだけだった。
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