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僕が20歳だったとき、彼女に一度だけ直接会ったことがある。
それまでに僕は彼女に、三度告白して、三度とも振られた。
一度目、彼女からはこう返ってきた。
「今は、そういう気になれない」
いつになったら、そういう気になってくれるだろうか。僕は、彼女の気分が移りゆく様子に敏感になった。
二度目の告白では、時々落ち込む僕を助けてあげられる気がしないからと、やはり手紙の返信の中で言われた。
「例えば、トオルさんが死のうと言ってきたら、私は『一緒に死のう』としか言ってあげられないだろうから」
僕は、彼女にそんな風に言わせた、タフでない自分を責めた。
十代を通して、いじめに遭ったり、事の軽重を問わずありとあらゆるアクシデントに激しく動揺したりして、僕は常々強くなりたいと願っていた。その一番のピークが、この彼女の言葉を目にしたときかもしれない。
彼女もまたメンタルがひ弱なタイプだった。
あくまで彼女の主観もあったろうが、やり取りを重ねていくうちに彼女について聞いたのは、おおよそ次のようなことだった。
両親と兄がいて同居していたが、彼女が家族との関係がとても希薄で、家庭には自分の居場所が感じられなかったこと。
しばしば自傷行為をしてしまうこと。
うさぎを自室に飼っていること。
漫画やアニメが趣味で、自身でイラストを描くのも好きなこと。
そして、XJAPANとクラシック音楽をこよなく愛していること。
彼女は、そうやって生い立ちから現在の境遇までを繰り返し僕に手紙で書き送ってきた。
俄然彼女を守りたい、彼女には僕という理解者がそばにいることが必要なんだと思い始めて、僕はついに三度目の告白に至った。
が、彼女は僕を男として受け入れるのを拒んだのだった。
気落ちする僕へのフォローのつもりか、その理由も添えて書いてあった。
「トオルさんは、私のことを知りすぎたから」と。
つまり、僕はどうしたら彼女の相手が勤まったというのだろうか。
そう言われてしまうと、もう僕は途方に暮れるしかなかった。
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