3人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女とは、結局自然消滅だった。
最後のことはまだよく覚えている。
その時は、2年ぶりの彼女からの連絡だった。
ある日家に帰ると、アパートの集合ポストに封書が入っていた。それが彼女からの手紙だった。
封筒の表面には、見慣れた筆跡の細かい字で宛名と差出人が書かれてあった。一字一字の最後の画が、いつも異様に長いのが彼女の字の特徴だった。
僕は、アパートの自室に入ると、電灯をつけ、それをまじまじと眺めた。
今この時になって僕に伝えたいことは何だろう。
彼女は、ここ2年ばかりのあいだに経験したことを通して、考え方に変容を来たしたのかもしれない。
それであの頃と違い、ロックに打ち込んでいる僕に対して思い直すところがあり、再び接点を得ようと手紙にその思いを綴ってきたのかもしれない。
そう思うと僕の手は痺れ、目眩さえした。
封書が薄っぺらいのだけが、僕をクールダウンさせようとしている。
端的に何と書いてあるのだろうか。
僕は、丁寧に封筒の端にはさみを入れた。
一枚ばかりの便せんが入っていた。
期待と失望、喜びと悲しみそれぞれの予感のあいだで胸が揺れた。
意を決してそれを開くと僕は、まず最後の一文を読むことにした。
彼女には、もう3度も振られている。さらなるネガティブな展開に備えて、喪失感に打ちひしがれることとなる覚悟を固め、少しでも早く結論、結末に当たる部分を飲み込んでしまって、楽になりたかったのだ。
一番下には彼女の署名があり、もう一行上に目をやった。
「ごめんなさい」
そこには、こんな文字が躍っていた。
僕は、思わず深いため息をついた。つい先ほどまで、まさしくふわふわと浮足立っていた僕の心が、確かな重みで一気に沈んでいく。
もう涙は出ない。
最初のコメントを投稿しよう!