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授業中にこっそり描いた構図を手に、放課後の美術室に向かう。今日は気持ちが軽い。
あと数歩先の扉は少し空いていて、中の声が漏れてきた。
「一発屋だよな、峰里先輩って」
一瞬で足が鉛になり、動けなくなった。
「才能はあるんじゃないの。絵は上手いし」
別の、女子の声。
「プレッシャーに潰されたんだろ。哀れなり」
複数人の笑い声が上がった。「才能ないお前が言うな」と突っ込む声。二年生のようだ。
「俺のモデルでヌードになってくれた方が役に立つかもしれんな」
「げっ、菊池、あんな細い人がいいの?趣味悪」
「いや、けっこうスタイルはいいと見た」
卑猥な笑い声に、胸に鋭利なものが突き立てられたみたいで息が苦しくなる。
「あんたの好みなんて、まあいいけど。私はあの人嫌い」
声からすると、瀬野さん。面と向かって「あの人」呼ばわりされたことはなかった。嫌われているのは彼女の視線から知っていたのに、改めて聞かされると耳を塞ぎたくなる。
「峰里?」
背後からの声に、子猫がビックリするみたいに震えてしまった。すぐに追いついて、私の横に並んだのは大駒だった。
「どした?」
「......な、ん」
なんでもない。それだけなのに言えない。
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