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1 溜め込んだ想い
もう日が暮れかけていた。美術室に来てから一時間が経つというのに、イーゼルに乗っかったキャンバスは真っ白のまま。
「天才・峰里の才能も枯れ果てたか」
背後からの声の主を、肩越しに睨む。身長は違えど、相手も同じ姿勢で私を見ていた。彼のキャンバスは多彩な色で埋まっている。
大駒の絵が下手だったら言い返したのに、ぐうの音も出ない。
みんなが身につけるようなエプロンではなく、背中に大きな星がついた、黒に縦縞のツナギが彼のユニフォーム。自意識過剰もいいところだけど、実力があるからみんな黙認している。というより、6人ほどいる下級生はみんな彼に憧れていた。
その大駒はいちいち私の神経を逆撫でする嫌な部長だ。今日、武田先生がいてくれたら、絶対庇ってくれたのに。
「おい、せめて下塗りだけでも終わらせとけよ。間に合わないだろ」
「あんたには関係ない」
私が帰ろうとする様子を察した大駒。その言葉に被せるようにして吐き捨てると、エプロンを外して、汚れていない画材を片付ける。
「おい」だの「待てよ」だの、ごちゃごちゃうるさい大駒を無視して、私は教室を出た。
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