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「ほら、入ろうぜ」
大駒に腕を引かれて美術室に入った時には、既に静まり返っていた。窓際には一年生二人もいて、気の毒そうな視線を感じた。
肩より長い髪で顔が隠れたのが幸いだった。真っ赤に熱を持ったこんな顔を見られたくなかった。
「なんだお前ら。先輩に挨拶なしか」
「あ、ハヨっす」
「もう放課後だっつの」
呆れた大駒と、下級生の遠慮がちな笑い声。耳障りな声を聞きながら震える手で絵の具を取ったものの、箱ごと床に落としてしまった。
「......あ」
足元に散らばった絵の具。呆然と見ていると、大駒が駆け寄ってきた。
「大丈夫か? 峰里、顔、真っ青じゃん。具合悪いのか?」
私は慌ててしゃがみ込み、手元にある絵の具を幾つか拾った。「一発屋」なんて分かってる。「嫌い」なんて、小さい頃からいつも言われてる。
私はずっと一人で絵を描いてきた。そんなの、いつものことなのに。
描けない。
数本の絵の具を握りしめたまま立ち上がり、そのまま走って美術室を後にした。
「峰里!」
大駒の呼びかけに立ち止まることなどできるはずもなく、私はそのまま猛ダッシュで逃げた。
階段を駆け下り、4階から2階まで下りたところの踊り場で、腕を引かれた。
「峰里さん!?」
聞きたかった声が私の挙動を止めた。
「武田、先生......」
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