10 表情

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 次の日、部活には向かわずに駅に行った。駅のホームで電車を待ちながら、昨日交換したLINEの画面を出した。 『今から電車に乗ります』  送るとすぐに既読が付いた。それから『了解』のスタンプと、現地集合しましょうと返事が来た。  スマホをモーターと反対のポケットに入れて、深呼吸した。正直、ぶーたに会わなくてよくてほっとしてる。  駅の傍にずっと植えられているサツキから瑞々しい香りが漂ってきた。  ぶーたのことが大好きなのに、会って切なさを積もらせていたんだ。一度、心と実際の距離をとったら意外にも、気持ちが落ち着いていた。  本当は待ってるって伝えたい。その間にぶーたに好きな人ができて、その人と結婚することになっても、ひたすら好きでいたい。   「勝てるレース、かぁ」  以前に誠一郎君に言われたこと、この前、光君に言われた失恋の対処法を思い出した。  とにかく一度リセットする必要があると分かってる。誠一郎君の手伝いをするというのは、実のところ自分にとって都合のいい逃げ道だったのかもしれない。  遠くから遮断機の音が聞こえ、間もなく構内に電車がやってきた。空気音と共に扉が開く。  私は足を踏み出して電車に乗り込んだ。
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