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あなたを待つ時間
あなたを待つ金曜の夜。
単身赴任で地方にいっているあなたが。
家に帰ってきてくれる日。
仕事を辞めてあなたについていくという選択ができなかった私のために、一人で地方へ行く決心をしてくれた。
『子どもがいないんだからついていきなさい!』
なんて、互いの親たちが無責任に言ったけれど、私たちの人生。好きなようにするわ。
シュワーシュワー
お湯が沸く音がする。
二杯目のドリップコーヒーをカップにセットする。チリチリと紙を破るとふわっとコーヒーの香りが溢れてくる。風もないのに空気が動く。
お湯を注げばその香りがますますひろがって、鼻腔をくすぐる。何度もお湯を足し、カップいっぱいのコーヒーができあがる。私のノンカフェイン。
あなたの好きな銘柄は別。
カップを持ち上げて一口含む。
酸味がすうっと鼻にはいり、かるい苦味は喉へはいっていく。美味しい。
カップを持って窓際に立ち、カーテンを開ける。すっかり暗くなった空に星が光る。
静かな一人の時間に私は今日の夕暮れの空を思い出す。
一杯目のコーヒーの時間。
17時15分 まだ夕方。空はオレンジ。
17時25分 少し夜。空はオレンジから紺へのグラデーション。境界の分からない、けれど空が2つにわかれている時間。
17時35分 夜。濃紺の中で星が見えたよ。
二杯目のコーヒーの時間。まさに今。
19時30分 ねえ。同じ空を見てる?
遠くの空にも同じ星が見えてる。
ただそれだけで心が強くなれる。
あなたを待つ金曜の夜。
はやく帰ってきてね。はやくしないと!
コーヒー全部飲んじゃうんだから。
でも…だめ。あなたの銘柄は飲めないな。
私はおなかをそおっと擦る。
まだまだぺったんこのおなか。
あなたを待つ金曜の夜。
はやく帰ってきてね。
三杯目のコーヒーは飲まずに待っているから。
嬉しい報告と一緒に。
きっと幸せの味がする。
一人で静かに過ごす時間もあと少し。
もうすぐあなたが帰ってきてくれるから。
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