前髪をあげて。

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 一週間。一週間経ったら、少しは忘れられると思っていた。  風景写真が趣味の父の影響で、幼い頃からカメラが身近な存在だった。大きくなると父のお古を譲り受け、目の前のものをひたすら撮った。思い出を鮮明に残せるカメラが大好きだった。  生まれてから誰に言われたわけでもなく、まるで生存本能のように、ぼくはシャッターを切った。テストで悪い点を取ってもそれだけはやめなかったし、やめる気配すらなかった。さすがにそれは怒られたけどね。  楽しい楽しいカメラ人生だが、ここでとんでもない壁にぶつかる。  初めて出来た彼女が、うまく撮れない。  中学で出会ったクラスメイトの女子。大きくて可愛らしい瞳を、このカメラに収める! と意気込んでいたのに、全然うまく撮れなかった。今まで風景や物ばかり撮っていたからか、人物の撮り方がダメだった。家族や友達を撮ったことはあるが、あまり気にしてこなかったのだ。  今まで感覚で撮っていたからか、ピントの合わせ方や光の角度など、調べれば調べるほど、教科書みたいな単語が出てきて混乱してしまう。お前、そんなに機能があったのか!  これを乗り越えれば、きっと成長できる。彼女を綺麗に撮れば、ぼくはもう思い残すことはない。彼女は綺麗に撮ってくれてありがとう! と喜び、ぼくらはラブラブハッピーな毎日を過ごす。そう信じていた。信じていたのに。  とにかく、うまく撮れば幸せになれると。これで満足しちゃって、カメラをやめちゃったらどうしよう。そんなのはいらない心配だった。  カメラと戦っていたぼくを待っていたのは、彼女からの別れの言葉とさみしそうな瞳だった。カメラばっかいじって、私と遊んでくれない、ひどい、と。  ぼくはいつからファインダー越しでしか人を見れない人間になったんだろう。いや、もしかしたら最初から?  自分自身に満足できず、振られた現実が、ぼくを責め続けている。どうやらぼくは、人の心が分からない哀しきモンスターだったのかもしれない。  だけど、ショックな出来事がもう一つあって。  目の前の海と失恋した暗い心が合わさっている。海の青色がぼくの涙に見えて、とても悲しい気分になる。波の音が軽く聞こえて、つらい。ぼくの心にぽっかり穴が開いたみたい。もともと穴が開いていて、空っぽだったりして。  泣き出しそうになって、唇を噛み締めると、背後から叫び声が聞こえた。  女の子が「マリーっ!」と誰かの名を呼んでいる。何事かと思って振り向くと、視界がふさふさに覆われた。
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