対馬の浮島

2/12
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「ワシは、東から西への渡し、ですわい」 「すると、帰りは、西から東への客をとる、儲かる日だな、新月は」 「とんでもねえ、帰りは客ナシ、空渡し、精のないこと、このうえなし、これ、掟でさあね、はて、旅の人、ヌシゃ、どこから来なさった?」 「オレか、北の海だ、波にさらわれ、潮に流され、着いたところが、この島だ」 「流れつくのは、たんと、おる、半島からは西の浮島、列島からは東の浮島、にな」  そのとき、西から東に渡る船が、近づいてきた。六人の老若男女が、土産物をどっさり買い込んで、満面に笑みを浮かべていた。 「楽しそうだ、満足しておるな」 「そりゃ、そうですわい」  船頭が応じた。 「見なされ、ヌシには、初めてじゃろうが、ほれ、みな、腰に縄を巻いておろうが」 「フム、巻いた縄から、細縄が垂れておるな」 「結繩じゃ、結び目が、いくつも、ついておるじゃろが」 「たしかに」     
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!