対馬の浮島

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「いかにも、オレは、外から来た、見るもの、聞くもの、味わうもの、みな、初めてだ、用心せねばならん、あちらを見てから、こちらを見る、これでは遅いのだ、あちらで見た鉾が、こちらでは弓やもしれん、鉾だとおもうて近づけば、たちどころに射抜かれてしまう、こちらで食べた甘栗が、あちらでは毒入り饅頭やも知れん、命は生かすもの、捨てるものではない、一度に全部をみよ、生きのびるために、な」 「ヌシゃ、そういうが、なら、教えんか、どうやって、見るんじゃい?」 「簡単だ、結繩人(ゆいなわびと)の、立居振舞を見るがよい、日ごろ、やりつけてることを見よ、本人が気づいとらんことを、な」 「なるほど、な」 「考えてもみろ、結繩人が、ある日突然、後ろ向きに歩いたら、周りのひとは、どうおもう?」 「そりゃ、変だと、おもうじゃろ」 「それが合図だ、ちらりと見えた、結繩の正体よ」 「正体?」 「尻尾は、おもわぬとこから出てくるもの、ウヌが知る結繩人に、妙な癖のついたヤツは、おらんのか」  船頭は、しばし、空を見つめ、櫓を漕いだ。 「そういえば…ワシの遠い身内に、まだ若い夫婦がおってのう、何年かまえから、西に渡りはじめてな、毎年のように、通っとるんじゃが、いま、ヌシにいわれて、初めて、気がつきましたわい」 「なにに、だ?」  「おととし、だったかのう、身内の寄り合いがあってな、けっこうな振る舞いが、出たんじゃが」
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