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「フム」
「その席で、若い夫婦が、妙な座り方、しとったんじゃよ」
「妙な、というと?」
「ワシら、東のもんは、右膝を立てて座るんじゃが、あの若夫婦、左膝を立てて、座っとったんじゃよ」
「左膝?…ということは」
「そうなんじゃ、西の座り方、なんじゃよ」
「わからんで、やっとるのかい、それとも、わざとかい?」
「まるで、気がついとらんようじゃった」
旅人は、船着き場で降りるまで、押し黙ったままだった。
西の渡しは、人の山だった。三日市も、盛況を極めていた。大勢の民が、忙しく、屋台を巡り、穀物を仕入れ、魚を売り、農具工具を物色し、刀剣を買い求めていた。旅人も、まる一日かけて雑貨を物色し、最後に、武具屋の店頭に座り込み、青銅の長尺ものを何本か、負けろ負けぬの掛け合い後、やっと仕入れることに、成功した。船着き場には、東の船頭がいた。
「こっちじゃ、こっちじゃ、ほれ、ヌシの船じゃ、乗った、乗った!」
妙に馴れ馴れしい。旅人は、ムカッとした。
「ウヌは、嘘つきか?」
「はて、なんで、ワシが、嘘つかなきゃ、ならんのじゃ?」
「帰りは客なし、儲けなし、それが掟と、いったではないか」
「あれは、結繩人は渡すこと、まかりならん、ちゅうことなんじゃ、ヌシゃ、縄に巻かれとらんじゃろが、ほら、ワシのおもったとおりじゃ、ヌシゃ、ワシとおなじ、用心を肝に銘じる民なんじゃよ、さあ、乗った、乗った…」
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