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巫女の祈りは、厳かに始まった。そして、大らかで、高らかに、祈られるものの偉大さを、謳い上げた。
そこまでは、よかった。わが身の小ささと、世の大きさを、ひしひしと感じさせる、詩と響きがあった。
ところが、突然、変調した。
いきなり、奇妙な鳴り物が入り、小刻みに震える鈴の音が、巫女の祈りを、詩から呪詛、呪詛から呪い、呪いから脅迫へと、煽りに煽った。
「ありゃ、なんじゃ?」
藁の下に這いつくばった船頭が、声を殺して、剣士に訊いた。
「シー…あれはな、羽の民(うのたみ)の祈祷の姿だ」
「なにを、祈っとるんじゃ?」
「はっきりは、せんが、祈祷の見返りに、記憶を差しだせ、と、ゆうておる」
「記憶を、差しだせ、じゃと?」
「一つ出せば、一つ結び目を、二つ出せば、二つ結び目を、三つ出せば…」
「まるで、盗人じゃ、ひとの心を手管にしおって、ワシらをら手籠めにするつもりか」
「シー、声が高いぞ!」
「猫目、ワシは、恐ろしくて、もう、我慢ならん、ワシは、逃げるぞ!」
「待て、待たんか、見つかれば、ただでは済まんぞ、命がけぞ!」
しかし、遅すぎた。床の上の、巫女の嬌声が、ピタリと止んだ。鳴り物が、すべて途絶えた。一瞬、重々しい静寂が、山全体を支配した。
それを破ったのは、巫女の、甲高い一声だった。
「外人(よそびと)は、帰してはならぬ、殺すのじゃ!」
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