#1  「私たち」から始まる

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#1  「私たち」から始まる

「ねぇ、私たち大人になったら何になる?」 帰り道。まさみが聞いてくる。 OLとか?  何も考えずに返す私。きっと、まさみは突拍子もない事を言う。むしろ、突拍子もないことを思いついたからの話題だろう。高低差を作ってあげる為にも、私は普通な方がいい。 「違うって、違う違う」 ん?ターンはそっちでは。てか、私の進路が違うとは? 「もう一度、聞くよ。私たち大人になったら何なる?」 ん。私たち? 私たちって、同じ職業に就くの?そんな約束したっけ。ずっと友達とか、そういう約束はした気がするけれど。 「だからさ、私たち友達だから、できるだけ一緒にいたいじゃん。で、ふたりだと結構最強じゃん?」 おお、バディものですか。そうですか。でもまぁ、そんな夢を語るのもありかもね。 「だからさ。ふたりでできる仕事を考えようよ」 なんかカフェとか開業する感じのやつ? 花屋とか。 「いやいや。そんな小市民的な幸せは求めてないじゃん。私たちって。もっと一山当てたいタイプじゃん」 あなたは、そうですね。確かに。強引に相方を巻き込むタイプでもあるよね。 じゃぁ、何だろう。起業とか?スタートアップ、って何だかわかってないけど。 「ま、それも考えたんだけど。何かインパクトに欠けるよね。ガツンとこない。一山も当てたいけどさ、世の中も変えたいじゃん。私たち」 2人称しか存在しないのか。それであなたの2人称にデフォで組み込まれてるのか、私は。 自己紹介が遅くなりました。 私は、なおこ。高校2年生。国立理系志望。帰宅部。昔のロックと海外サッカーが好き。 まさみの志望は私立文系。演劇部を2ヶ月でやめてからは帰宅部。趣味も髪型もコロコロ変わる。今は「暗いラップが好き」とのこと。暗いラップって何だろう? で、まさみは、何がしたいの? 「2人でお笑い、とかも考えたんだけどさ。何か違うのよ。youtuberとかも絶対無いしさ」  絶対無いんだ。後を追いかけるのとか、嫌いだもんね。 「そうそう、でさ、考えたのがさ」 と、間を作るまさみ。 なになになになに?4回もなに。 寸劇みたいだけど、一応付き合ってあげる私。友達だから。 「あれですよ、あれ」 2回付き合うほどは優しくない。沈黙で待ちます。 「せ・い・じ・か。政治家」 懐かしの「お・も・て・な・し」久しぶりに見たな。 そう、政治家ですか。ちょっと驚いたけど、リアクションは薄めで。てか、政治家、ひとりでもできるんじゃね。 「政治家と秘書ですよ。私が政治家で、なおこは秘書。不祥事の身代わりで自殺する方」 おい。 悪事に手を染めるつもりか。そして親友を殺すな。 「私には絵が見えるんだ、未来の絵が」 これはまさみの口癖。楽観的な事を言い始める前の予兆。 それ、文化祭の前にも見えたやつでしょ。体育館がスタンディングオベーションに包まれる絵が。 「そう、見えたのはB組のだったけどね」 で、今度はどんな絵が見えるの?参考までに聞くけど。 「私となおこがさ、何か台みたいなものに乗ってさ。演説してるんだよ」  そう。ま、するかもね。演説。私も台に乗ってるんだ。 「そうそう、ここがポイントなんだよ。アイデアなんだよ。私たちは2人で演説してるの。今みたいに、本当に今みたいな感じでさ」 ちなみに聞くけど、それは漫才じゃないよね。 「そうそう、漫才みたいにさ、わかりやすく2人で演説してるんだよ。私が突拍子も無いことを言って、なおこが突っ込むんだよ。最高じゃない?」 最高、かなぁ? それは高校2年生の秋のこと。 確かに今回も突拍子も無かった。
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