第五章 マテイ

17/18
50人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
 春が、「思い出した」と、口元に手を当てている。「この被害者、轢き逃げ事件の容疑者だよ」 「……ああ」熊野御堂も、思い出していた。「それって、赤信号で停止していた原付バイクとオートバイに軽乗用車で追突して、そのまま逃走している?」 「うん。もう一年以上は経過しているけれど、容疑者は捕まっていなかった。ひき逃げの疑いで公開手配されていたのが、瀬戸洋一(せとよういち)容疑者。年齢は二十代の半ば過ぎだったと思う」 「確か、被害者の大学生二人のうち、一名は死亡。もう一名は怪我だったか。容疑者は、二人を救助することもなかった。裸足で逃走する姿が、防犯カメラに映っていた」  腕を胸の前で組んだ春が、「その容疑者が、どうして?」と、遺体を見下ろしている。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!