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(二)
ドアをノックする音と共に、誰かが部屋の中に入ってきた。アミラだろうと顔を向けると、大柄な男性が心配そうに近づいてきた。
「起き上がって大丈夫かい?」
ザイード・アリ=ナビヤーンの姿を正面から見た衝撃は、思いのほか大きかった。威厳に満ちた顔立ちと、男らしい筋肉質な体。その生命力溢れた輝きに、思わず目眩を覚えたほどだった。
「だ、大丈夫です、ザイード王子。万全ではありませんが、家の中を歩き回れるくらい回復しています」
黒い瞳に喜びを湛え、ザイードが微笑んだ。が、下唇を噛み言葉を選んで語り出した。
「それは良かった。今回の事件について語るには、君の回復が何より大事だからね。まずは、そこにある椅子に座ってからにしよう」
今回の事件に関わる話は、体力がないと聞き入れないほど残酷なのだろうか?
促された布張りの椅子に座り込み、姿勢を正しザイードを見つめた。
「君はアラブ諸国でおこなわれている、ラクダレースを知っているかい?」
「ええ、もちろん」
どうして、そんな話から始めるのだろう?
ラクダレースと今回の事件と、何が関係しているのだろうか?
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