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薬物、性奴隷、人身売買……
どれもこれも有り得ない世界の話だ。それが私の目の前で、いいえ。私が巻き込まれていたなんて、信じられない!
「君を殴ったのはアリ=マジャールの国際警察の警官達だった。組織の仲間と勘違いして、君を襲ったらしい。本当に申し訳なかった」
人間を容易く連れ去って、物のように売る。現実にそんなことが可能なのだろうか?
「そ、そんな馬鹿な話はおかしい! 命ある人間を売買するなんて、絶対に間違っている!」
「私だってそう思っている。あってはならないことだ。しかも、我が国アリ=マジャールで!」
ザイードは己の肩を抱き、怒りに震えた我が身を抑えていた。起きてはならない犯罪行為が母国で発覚したのだ。国の長でもあるアミールの息子には、耐えられない現実なのだろう。
「捕獲された君の友人達は、薬物や暴行のせいで物を言える状態にない。彼らや私達を救ってくれるのは、今や君しかいないんだ」
浮かぶのは最後に目にしたジェニー達の笑顔だった。送別会でのおどけた表情や、大声で歌いあったあの日の笑顔――それが何の因果か、人身売買の標的にされてしまったのだ。
そして、私だけが助かった。警官の勘違いで体に傷を負ったが、幸いにも己を失うほどの恐怖や苦痛は伴わなかった。
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