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「隣国のファジャジにしか日本領事館がなく、アリ=マジャールでは君の帰国手続きができないんだ。色々と不安だろうが、もう少し我慢して欲しい。それと、遅くなったがご家族に連絡して、そのことを伝えなければいけないね」
またしても彼の優しさが、私の傷ついた心に染み渡った。
「わ、私のことは気にしないでください。誰も私を待っている人は……家族は……」
その続きは言えなかった。日本に帰っても、私を待っている人は誰もいない。私は全てを失ったのだ。
そして、その現実から私は逃げ出し、今ここに辿り着いた。何かを察したように、ザイードは私の話を遮った。
「……今はその話はしなくて良い。回復することだけに専念して、ここで過ごして欲しい。それまで私がつているから、安心しなさい」
幼子をなだめるようにザイ―ドは私を抱き寄せ、頭のてっぺんにそっとキスをした。
「泣きたいなら、私の胸で泣きなさい」
それ以上のことは何も言わず、ただ私の涙が尽きるまで抱きしめてくれた。温かなその胸の中で、いつしか私は安らぎを感じていた。
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