16人が本棚に入れています
本棚に追加
どうやらこの声の主が、事のあらましを全て知っているようだ。穏やかで訛りのない流暢な英語の響きに、気品と知性が感じられる。咄嗟に頭の中に金髪碧眼の美しい容姿の男性像が思い浮かんだ。
「私はザイード。ザイード・アリ=ナビヤーンだ。君はアジア人のようだが、私の言葉は理解できているのかな?」
ザイード・アリ=ナビヤーン?
この名前から推測すると、どうやら欧米人ではないようだ。金髪の美しい顔は全くの見当違いだったわけだ。
「わ、私は、マ、マリコ。飯野万里子、日本人よ。英語はわかるわ。ニュージーランドに留学したことがあるから」
喉に何かが詰まったように、言葉が上手く出てこない。
「日本人ですか……本当に災難でした。あんなことに巻き込まれて」
災難? あんなこと? そうだわ!
私はなんとか助かったようだけど、あそこには私の他も人がいた。ジェーンにあの子供達はどうなったのだろう?
「あ、あの子達は? ジェーンは? みんなは無事だったの?」
私の必死の問いかけに、声の主は黙り込んでしまった。
「まだ君は本調子ではない。この話は聞かせたくない」
本調子でない人間に聞かせたくないほど、残酷な結末を迎えたのだろうか?
頭の中が混乱してきて、いつの間にか止めどなく涙が溢れてきた。
「泣かないでくれ、お願いだ」
ベッドの上で動くこともできず、ただ涙にくれるだけなんて……あぁ、これでは日本を出発する前の私に逆戻りだ。何もできなかったあの時の私と一緒だった。
最初のコメントを投稿しよう!