プロローグ

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プロローグ

   悲しいことから逃げたかった。苦しいことから逃げたかった――日本を離れて二か月。私は今、インドのムンバイにいる。韓国からアジア大陸に入り、ベトナム、カンボジア、タイ、インドと旅を続けていた。  ニューデリーで食べた食事のせいか、それとも長旅の疲れか。ムンバイに着いた途端、下痢やおう吐を繰り返した。  たまたまゲストハウスで知り合った宿泊客に看病して貰い、今はもうすっかり回復に向かっていた。 「もうお別れなんて寂しい。出会って間もないのに親身になってくれて、感謝の言葉しかないわ。ありがとう」  明日その仲間の一人、オーストラア人のジェニーが帰国する。ゲストハウスに泊る男女七名で、ジェニーの送別会を開いているところだった。 「マリコが回復して、本当に良かったわ。苦しんでいるあなたを置いて帰国できないもの」  看護師をしているジェニーの、慈悲深い微笑みが顔中に広がる。特にここにいる女性達とは、真の友情とも呼べるような絆を深めた。 「マリコが倒れなかったら、私達は話すらしないで別れるような関係だったわね」  世話好きで少し内気なカナダ人のケイトがそう言った。運命と呼べるような出会いに感謝していると、笑みを絶やさなかった。
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