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Ⅰ.なりたいもの
この村に育った男ならば、皆一様に同じ夢を描く。
「――立派な戦士になりたい」
なぜって? そうだな、そりゃあやっぱ教育だろう。
なぜだかうちの村では屈強な男児が生まれがちで、更に冒険者組合に『戦士』としてスカウトされていく人間が多い。すると村に対して礼金が支払われるのだから、村のお上からすれば、どんどん輩出したいに決まっている。
だから子供のうちから「戦士がいかに気高い職業か」というのも教え込まれるし、頭脳よりも肉体を鍛えるような教育を受ける。その結果村人が所謂『脳筋』ばかりになっているのも考えものだが。
勿論全員が全員戦士になれる訳もないから、スカウトされなかった人材は屈強な村人Aとして生きていくことになる。例えば八百屋のガーランドさんなんていうのは相当に大きくゴツい身体をしている元戦士コースの人間だ。だが剣術が苦手だったこともあって、スカウトに至らず農民となった。
ただ単に身体が大きい、力が強いなどというだけでは、どうやら戦士として認められる訳ではないらしい。それを示す良い例としてこのガーランドさんの話はよく聞かされる。俺も今使った。
やはり売り手側としてはスカウトに「この村は逸材揃いだ」と思ってほしい訳だから、ある程度戦士候補者を絞る傾向にある。肉体、性格、剣術、盾術、体術などを総合的に判断し、男たちを篩にかける。
その中で生き残り、この村で戦士を目指すことを許された者達を「戦士コース」と呼んでいる。俺もこの「戦士コース」の人間だ。
この村の子供達の憧れ、そして大人たちの希望。それが戦士コースの人間なのだ。そしてその先にあるのが何とも輝かしい、戦士という職業なのだ。
まあそんな教育の賜物と言うか土壌というか文化というか、この<カイズ村>では「戦士」という職業がアイドル並の人気を誇っている。
……あ? なに「お前はどうなんだ」って?
戦士に憧れ、戦士を目指しているのかって?
俺の場合は……少し違う。
俺にはもっともっと憧れの存在がある。
だからこの村でよくされるこんな質問に決まってこう答えてやるんだ。
「デルガドはどんなタイプの戦士になりたいんだ?」
「俺がなりたいのは、戦士なんかじゃない」
――そう。
俺がなりたいのは戦士なんかじゃない。『勇者』なんだ。
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