Ⅲ.転機

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Ⅲ.転機

 そんなある日、この村に事件が起きた。  村の周囲の魔物が暴走したのだ。その年は記録的な乾季となり農作物が育ちにくく、当然村の周囲の草原も力ない枯れ草となっていた。  そこで普段は人間やその食料を狙わない魔物たちも、やむを得ないといった決死の形相で村に襲いかかってきたのだ。  屈強な元戦士や戦士コースの大人達によって防戦はしていたが、徐々に押し負けて負傷者の数もどんどん増えていった。そしてついにまだ見習いである若者の俺達、戦士コースの人間にもお鉢が回ってきた。 「じゃあ僕が行きますよ」  真っ先にそう言って魔物に立ち向かって行ったのは、普段飄々としてる誰あろう兄ちゃん、アルマルディだった。  兄ちゃんは全く臆することなく、得意の剣術で魔物たちをバッサバッサと駆逐していった。それは豪快に斬り倒すというのではなく、的確に魔物の腱や骨を狙って「斬る」というよりも「通す」といった剣さばきだった。  まるで踊るように魔物の隙間を縫っては斬って、縫っては斬ってとしていくうちに、兄ちゃん1人の活躍で瞬く間に魔物達は崩れ落ち、戦況は人間優位に進んでいった。  俺も何かしなきゃという一心で、兄ちゃんの倒した魔物にトドメを刺そうと剣を振り上げた。その時――。 「――やめろ!」  遠くで兄ちゃんの声がした。 「こいつらだって困っているだけなんだ、殺すことはない」  兄ちゃんのその言葉に、俺は剣を下ろした。そして魔物達もそれを察したのか、兄ちゃんに攻撃をすることなく、負傷箇所を引き摺りながら巣へと戻って行った。驚くことに、兄ちゃんと相まみえた魔物は全員死んでいなかった。  兄ちゃんは剣を背中の鞘に戻しながら魔物を見送った。その目はとても優しく、そしてどこか申し訳無さそうだった。  ――俺はその時に、兄ちゃんへの憧れを強く抱いたのだ。  強くて優しいアルマルディという、一風変わった戦士見習いに。
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