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Ⅳ.不思議な男
俺は兄ちゃんは正しい行いをしたと思った。何より退いていった魔物達の姿がそれを物語っていた。しかし村のお上の判断は違った。
「なぜ魔物を取り逃がしたんだ」
「かえって恨みを買って、また襲ってくるぞ」
その一点張りで、兄ちゃんの戦いぶりを糾弾したのだ。勿論現場で戦っていた人間たちはその活躍ぶりと、もし兄ちゃんがいなかったらどうなったか分からないというような弁明を展開した。
しかし頭の固いお上の考えは覆ることはなく、遂には兄ちゃんに戦士コースからの落第を言い渡した。
「仕方ないって、もともと素質なかったんだから」
いつものように兄ちゃんはそう言って笑った。だけど俺はブンブンと頭を振って食い下がった。
「兄ちゃんは村を守っただけだ! それが何で戦士コースから外されなきゃいけないんだ! 兄ちゃんが辞めるなら、俺も辞める!!!」
「……デルガド、ありがとな。でもそれは駄目だ、お前はこの村の希望なんだから」
「兄ちゃんだって村の救世主だ!」
「いいよ、お前がそう思ってくれているなら、それでいい」
兄ちゃんは啜り泣く俺の背中を擦った。身体は断然俺の方が大きいのに、人間としての器では、全くもって勝てる気がしなかった。
――そんな俺達の背後に、気付くと人が立っていた。
異国情緒どころか異界情緒溢れる、全身黒の身体にフィットした服を纏った男だ。いつからいたのか、どうやって近付いたのか全く分からない。
「……アルマルディさんですか?」
「え? あ、はい、僕がそうですが」
不思議な男はそれを聞くとニヤリと笑い、頭にかぶった細長い帽子を脱ぐと、胸元に寄せた。
「突然すみません、私<冒険者組合>の特殊人材科に勤めております、メリオと申します」
「え!? 冒険者組合!?」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。何せ冒険者組合の人間は基本的に毎年決まった時期に判定員を送り込んでくるだけのはず。それ以外で村人にコンタクトを取るなんて聞いたことがない。
「驚かれるのも無理はありませんが、私の科は特殊でして。多くの人材を抱えるようなものではございません。特殊な職業の、特殊な才能を見出しております」
「……それで、僕に何か用ですか?」
不思議な男は深々と頭を下げながら、こう言った。
「――あなたは勇者となる資質をお持ちだ、アルマルディさん」
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