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Ⅴ.勇者になりたい
不思議な男が恭しく兄ちゃんに膝をついた。
「あなたは希少な勇者。どうか私と共に冒険者組合においで下さい。勿論村への礼金も、あなたのご家族への契約金もはずみます」
「勇者……僕が? 僕なんかが、そんな……」
兄ちゃんは戸惑っていたが俺は興奮していた。自分の兄ちゃんへの憧れの感情は決して間違っていなかったのだと、内心嬉しくなっていた。
不思議な男は諭すように兄ちゃんに訴えかける。
「勇者とは強くなる見込みがあり、何よりも優しい心を持ち合わせている。そしてそれ故に人の痛みが分かる。アルマルディさん、あなたはぴったりです」
「……確かに。本当だ……! 兄ちゃん、これはもう行くしかない! 今のこの状況も、きっと兄ちゃんが勇者になるために必要なシナリオだ!」
嬉々として兄ちゃんの肩に手を置くと、兄ちゃんは頬を掻いた。
「……そうか、ここで断ったって、どのみち僕は、他にやることがないのか」
兄ちゃんは自分を落ち着かせるようにふうと息を吐くと、不思議な男を見据えた。
「僕で、僕で良かったら、やってみます」
この戦士の村から、勇者が生まれた瞬間だった。
不思議な男も嬉しそうに手を叩いて歓迎した。
「兄ちゃんはやっぱ、只者じゃなかった!」
隣で喜びを分かち合う俺に、不思議な男はこう言った。
「そこのあなたも大変な資質をお持ちの様子。またお会いできる日を楽しみにしていますよ」
「そうだよデルガド、お前には僕なんかと違う本物の才能があるんだ!」
今度は兄ちゃんが嬉々として俺に言った。
勇者とそのスカウトをした不思議な男が、共に俺の資質を認めてくれているのだ。俺にも可能性がある――そう思えた時、俺の頭の中には「勇者になりたい」以外、何も浮かばなかった。
「俺も……兄ちゃんみたいに、なれるのか……?」
「ええ、あなたなら絶対に」
不思議な男は満面の笑みでそう答えた。
俺は去っていく不思議な男と兄ちゃんの背に手を振りながら、絶対に勇者になってやると、心に誓った。
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