Ⅵ.判定員

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Ⅵ.判定員

 ――あれから2年が経った。  でも俺の心は決して変わってはいない。勇者を目指しながら戦士コースで異例の活躍をする男として、俺は生活を続けている。  そしていよいよ、冒険者組合から職業判定員がやってくる今日を迎えた。  毎年判定員がやってくると村では歓迎の宴を行う。馬車に乗って現れる判定員たちに花吹雪を浴びせ、夜な夜な酒宴が開かれる。  そこで今年の戦士候補者として戦士コースの面々が紹介され、判定員に面を通すというのが通例なのだ。  例に漏れず、俺は特大の期待株としてその席に呼ばれている。  肝が座っていると自負する俺ですら、この扉の向こうに判定員がいると思うと手が震えてくる。  ――いや駄目だろ。  戦士候補どころじゃない、俺はそこから勇者に羽ばたこうっていう野心があるというのに、こんなんでビビってる場合じゃない。 「失礼します、デルガド、入ります!」  扉を開けると村の綺麗所を従えたお上と共に、異界情緒漂う纏を来た男が3人座っていた。俺はその中の1人を見て目を丸くした。 「――おや、あなたでしたか」  それは兄ちゃんをスカウトして行った、あの不思議な男だったのだ。 「何だメリオ、この男を知っているのか」 「ええ、以前勇者アルマルディを誘いに来た際に出会ったのですよ」 「そうか、アルマルディ殿もこの村の出身か! いや本当にこの村からは優秀な人材が生まれますなあ!」  判定員達の会話からも兄ちゃんの活躍ぶりを感じ、より俺を奮い立たせた。俺はお上の指示通りに頭を下げて言った。 「明日より判定試験を受けさせて頂きますので、よろしくお願いします!」 「ええ、楽しみにしていますよ……えっと、デルガドさん」  ……と、ここまでが戦士コースとしての規定事項。そしてここから先が、俺の勇者を目指す上でのアドリブだ。 「……私は勇者を目指しております! 是非とも判定の際には、勇者としての資質についても見極めて下さい!」 「な!? おいデルガド! 勝手なことを言うんじゃない!」  お上と役人たちによって、俺は両脇を抱えられながら扉の外へと引っ張り出された。その最中、判定員たちに軽く頭を下げると、兄ちゃんをスカウトしたあの男は俺の目を見ながらゆっくりと頷いた。  ……よし。これでいい。  これで俺は、勇者としてのスタートラインに立てたのだ。
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