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Ⅷ.戦士なんかじゃない
俺は固唾を飲んで判定員達の目を見つめた。
「デルガドさん、おめでとうございます。あなたは職業判定試験に合格しました。あなたはこれより、冒険者組合に所属します――」
やった。合格した。そう思った矢先だった。
「――職業『戦士』として。ランクはSSR、特記技能として盾術、体術にマークを与えたいと思います」
「うおおおおお!!! デルガド!!!! すごいぞ!!!!」
村のお上たちは飛び上がって喜んでいる。
まあそうだろう、なんてったって村初のSSR戦士の誕生だ。しかも特記技能を2つも収めているレア戦士だ。喜ぶのも分かる。でも――。
「――じゃない……」
「はい? 何ですかデルガドさん」
「戦士なんかじゃない……」
俺は判定員の前にズイと寄る。
「俺は! 戦士なんかじゃない! 勇者だ、勇者になるんだ! 兄ちゃんと同じ様に、勇者になるんだ!」
そう叫ぶと、判定員や村の人間たちは気圧されて後ずさった。
しかしあの不思議な男だけは、笑みを称えながら俺の前に進み出る。
「……デルガドさん、あなたは勇者ではありません」
「なぜです!? あの日言いましたよね、資質があるって!」
「ええ言いました。けれど勇者の資質とは言っていませんよ」
「ええ!? いや、うん、そうか言われてみれば……」
「あなたはとんでもない戦士です。下手したら勇者よりも貴重かも知れませんよ?」
「いや……でも俺は、勇者を目指して、勇者になりたくて……!」
不思議な男は膝をつく俺の肩に手を乗せると、他の班定員の方を振り返って発した。
「皆さん、デルガドさんに、今後の配属についてお話しても良いですか?」
「え、ええ、メリオさんが宜しければ」
不思議な男は小さく頷くと、俺の方に向き直った。
「デルガドさん、私は特殊人材科のメリオと申します。私は戦士という一般職の判定員という訳ではないのですよ」
「……? どういうことですか」
「あなたには、すぐに配属してほしい冒険者パーティーがあります。その人材を探すのが私の目的ですから」
「パーティー?」
「ええ。そこでのあなたの役割は、戦士なんかじゃない――」
そこまで言うと俺の両肩を力強く叩いた。
「――あなたは、勇者アルマルディの盾になるのです」
「アルマルディ……兄ちゃんの……盾?」
「はい、勇者一行は苦戦を強いられています。だからあなたのような屈強な戦士、屈強な盾が必要なのです」
「苦戦している……兄ちゃんが」
「どうか、どうかデルガドさん、勇者の盾として、その力を振るっていただけませんか?」
ずっとなりたかったのは勇者だ。戦士じゃない。戦士なんかじゃない。
今受けているオファーは戦士だ。それも間違いない。
でも何故だろう、俺は今、悪い気がしていないんだ。
兄ちゃんのために戦えるから?
特別な才能として必要とされているから?
いいや違う。気に入ったんだ、この人の言った言葉の響きが。
俺は勇者じゃない。かといって戦士でもない。
俺は、勇者の盾になる。
勇者なんかじゃない。勇者の盾になる。それが気に入ったんだ。
「……すぐに、行かせて下さい、兄ちゃんのところへ……!」
「そう言ってくれると思っていましたよ、デルガドさん!」
こうして勇者を目指した戦士見習いの話は終わる。
だが新たに、勇者の盾を目指した戦士の話が始まるのだ。
■おわり■
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