三ツ池部長の願い

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三ツ池部長の願い

 20代の社員が多いこの会社では、社員教育は急務。2015年に制定された女性活躍推進法を全く遵守されていなかった。課題は山積み。そんな中、社内改革を推進するため、私は人事部長として当社に入社することになった。別に前職が嫌いだったわけではない。なんなら年収は、前職のマイナス500万。年収が下がっても、私はこの会社に入社を決めた。私にとって仕事はお金じゃない。自分が培ってきた能力を活かせるかどうかが判断基準。未発達でも若者が活気づいている会社だからこそ、やりがいを感じた。私のミッションは、社員満足度を向上させ離職率を20%以下に抑えること、女性管理職の比率を30%以上にすること、研修や評価制度など社内制度を整えること。まさに私の得意分野。  社内改革を推進する上で、まず自分が管轄する人事部を人事課・労務課、そして教育課の三つに細分化した。もともとは人事部人事課で教育も兼任していたが、様々な課題を早急に解決するには、業務を専任にして遂行したほうが結果が出やすい。特に人材教育は、今後の企業成長を考えても作っておく必要がある。新しく立ち上げた教育課には、鈴木茜さんをリーダーに指名した。彼女はもともと中途採用と入社時研修を担っていた。今年で社歴八年目で営業部での経験もあると聞いた。彼女の今後のキャリアを見据えても適任だと思った。早速彼女を面談室に呼び、「教育課の立ち上げを任せたい」と伝えると、嬉しそうな笑みを浮かべて「ありがとうございます。頑張ります!」と答えたのを覚えてる。  茜さんは、本当に頑張り屋さん。教育課の立ち上げ当初、人事戦略を考案するために他部門の情報が必要だったが、すべて茜さんが行ってくれた。私がやりたいことを1つ伝えると、すぐに他部門と連携し、次の日には全て欲しい情報が集まった。そのうえ「当社であれば、こちらのやり方の方がスムーズに進むと思います」と人事教育の知識が少なくても積極的に自分の意見を言ってくれた。社歴が浅い私にとっては、とてもありがたかった。私はその働きぶりを見て、彼女を昇格させたほうがいいと直感で思った。人事制度が整ってなかった前体制では、昇格制度が曖昧で機能していなかったから、彼女のような優秀な人が埋もれてしまっているのが実情。それにはマネジメント能力を図り、育てる必要がある。どちらにせよ人員は足りていなかったから、すぐに教育課の社内公募を出し、2名追加人員を確保することができた。茜さんはもともと真面目な性格だから、注意をしたり会議で厳しく意見をすることもあったが、そのあとその空気を引きずることもなくメリハリのある仕事をしていた。後輩たちも、茜さんの影響からか能動的に動いてくれるようになった。後輩社員の成長を見て、以前「茜さんを管理職に推薦したいと思っている」と話したことがあった。それに対して彼女は「私にはまだ早いと思います」とうつむいた。茜さんには自分の長所を自覚し認めてほしい。そしてそれを活かし、管理職として成長してほしい。本当にそう願っている。  そして、3年目に入った今。入社時研修の充実や入社1年後までの教育プランを改善したことで、初期課題だった離職率はある程度改善された。私の基本ルールはこうだ。最小工数でできそうなことはまず小さくやってみて、上手くいきそうなことは拡大させていく。難しいものには見切りをつける。そうやって、他の課題に対する解決策の種まきも完了した。あとは、更なる研修の拡充のために、人材開発や教育の経験者を課長職として採用すれば完璧!10名の応募者から、人事業務全般を網羅していた佐々木課長に白羽の矢を立てた。  一緒に働きだして分かったが、佐々木課長はクールで冷静なタイプ。私とは真逆。会議中、佐々木課長の物言いに空気が凍り付くときが時々ある。でも、最初は誰でも環境に慣れるまで時間がかかるものだし、場の空気を引き締めてくれる存在にきっとなってくれると信じている。人事畑で15年以上勤めているのに、彼女のバッグにはいつもビジネス本が入っていて自己研鑽を怠らない。その仕事への姿勢は、部下たちの刺激になっているはず。  茜さんなら、私の良さと佐々木課長の良さを両方見て吸収してくれる。早く彼女を管理職にさせてあげたいと願っている。
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