ショパン、ドビュッシー、ラフマニノフ

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公園を出て、なつかしい商店街に行った。 近所の散髪屋や眼鏡屋はあったが、老舗の呉服屋はパチンコ店に変わっていた。 そして、あった! 喫茶『オルフェ』。 古い木造の黒い建物で、一階は昭和レトロな店舗、二階は住居になっている。 そう、ぼくらの家。 カランとドアを鳴らして、さっさと店に入った。なにしろ、一時間だけなのだ。ためらっている場合ではない。 「ウソでしょう!」 と妻の冬子が大きな声をあげた。 布巾で拭いていたティーカップを落とした。 カシャン、と床で割れた。 「驚かせてごめん」 ぼくはあたまを下げ、カウンター席の一番奥に腰かけた。 あぁ、良かった、ほかの客はいない。 夫婦水入らずだ。 ショパンのピアノ曲が流れている。 以前は、ジャズをかけていたのに。 エヴァンス、コルトレーン、モンクとか。
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