ショパン、ドビュッシー、ラフマニノフ

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「ガトーショコラ、食べませんか?」 と冬子が聞いた。 「知ってのとおり、チョコレートは大好物さ」 とぼくは笑った。 「新しいメニューなのよ。小麦粉を使わないで焼きました。タマゴとチョコレートを丁寧に混ぜると、しっとりとするの。一郎さんの好きなクルミがたくさん入っています」 「珈琲もお代わりもらえるかな?」 「もちろん」 なんて、気分が良いのだろう。 まるで、ぼくは生きているようだ。 さっきまでショパンが流れていたが、いつのまにかドビュッシーに変わっている。 冬子は冷蔵庫からガトーショコラのホールを取りだし、ナイフを入れた。 サクッ、という音が響いた。 そして、もう一杯、ぼくのために珈琲を淹れてくれた。 「ありがとう」 全身全霊で、ガトーショコラをいただく。 さすが、妻の自慢の手作りだった。 時間が止まればいい、とぼくは思った。 神さまだか、誰だか知らないけれど、この機会を感謝いたします!
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