アフガンハウンドの悪戯

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アフガンハウンドの悪戯

「今日買い物に出掛けるって言ったよな。お前これ着ろよ」  柊介が出してきた服は、胸から上がレース編みになった、黒いシャツだった。普段だってこんなの着ないのに、乳首につけられた輪っかが見えて、羞恥心で悶絶死しそうな代物で、亮介は必死になって訴えた。 「無理だ」 「なんで? 」 「なんで、じゃないよ、引けよ! 」 「俺が俺の物に何を着せても、関係ないじゃないか」  馬鹿ハウンド! 「俺は店をやってるの!辞められないの!これで飯、食ってんの! 」 「だから? 」 「だから?人の立場を考えろ」  マーキングにしては意地悪過ぎだろう。  まだジンジンしている乳首は、さっき柊介がピアス用の薬を塗ってくれた。 「ほら御披露目なんだよ。それとも片側だからイヤなの?こっちもする? 」  左乳首に吸い付いてきた柊介は、キスマークをつける勢いで、乳首を吸い出しにくる。 「ひょうひゅんひょ」  どうするか聞いているのか、針をあぶり出した柊介の手元をみて——じょわっっ。おしっこがもれてしまった。  顔面蒼白とはこの事だ。  出始めたおしっこを止めるのは、並大抵の事ではなく、よもや、歩くなんかままならず、中心に力をいれるので精一杯だった。 「いい事みっけ」  ドエススイッチを入れてしまった自分に、亮介は泣きそうな程、後悔した。  ダメダメダメ、絶対良くない事に決まっている。 「ちょっと我慢してね」  今思えば、恥ずかしくても、あの場で漏らしちまえば良かったんだ。  後の祭りであった。  カメラを設置して、回し始めるまでのスピードの速さは、いつかやろうと何回も練習したに違いない程に秀逸だった。アングル最高って、頭の上で幻聴が聞こえた。 「さっ、どうぞ」 「どうぞ? 」 「うん。どうぞ」 「どうぞってなんだよっ」  こんな攻防意味がない。どうせ負けるのに。 「おしっこして見せて」  甘い声で耳元で話すんじゃねー。 「出る訳ねーだろ! 」  もう一秒だって待てない程に、張りつめた膀胱は、スポッターの射出命令を待つように、歓喜の声を上げて高々と発射された。  素直に出せば良かったと更に後悔する事になるなんて、この時の俺には解ってなかったんだ。  しゃ————————。  柊介が椅子に座りながらカメラを回している。舌舐めずりする赤い唇に、俺は情欲の火が灯るのを見た。 「この二重人格! 」  柊介はセックスの後や、俺を攻めて満足した後には、必ず煙草を吸う。未成年だろうと、諫めた事があったが、一浪しているからもう成人している。と言われては、それ以上口出しは出来なかったし、寧ろ柊介の吸うラッキーストライクの香りが、俺には媚薬の役割を果たしていた。  だってさ、煙草=満足って図式、それが出来上がる位には、あいつに開発されてしまっていた身体が、ここにはある。  柊介は満足したのか、俺がシャツのボタンを嵌めるのを許してくれて、若干乳首に刺激はあるものの、俺達は食品の買い出しに行く事になった。  靴を履こうとする俺を、柊介は呼び止めた。 「亮介さん忘れ物だよ」  パッと華やぐほどのまん丸の黒目を見て、あっ、アフガンハウンドになっている。ちょっと安心して軽い口調で何の事?位に言った。 「携帯なら持っているよ」 「もっと大切な物だよ」  鍵もあるし、ハンカチは忘れていたけど、もっと大切かと言われたら全然そんな事ない。 「何? 」 「こっちだよ。靴脱いで戻っておいで」  明るい雰囲気の声に、亮介はすっかり騙され、戻らなきゃ良かったと心底後悔した。  呼ばれるがまま、寝室に行く。 「ほらこれ」  柊介はベッドにドカッと腰かけると、紙袋を俺に差し出した。  大して大きくない紙袋の口を、なんてことは無しに開けて、そのまま亮介は絶句した。 「これ何だよ」 「ん? 」  可愛く言ったって駄目なんだよ。 「エ・ネ・マ・グ・ラ」  止まりっぱなしの俺の思考は、やっと動き出した。 「エネマグラ?」って何。 「はいこっち」  ベッドに押したおされた亮介は、柊介の足に抑え込まれ、少し縦割れになり始めたアナルをさらす羽目になった。 「自分で入れてみせろよ」  ハ——————————?手に握らされた卑猥な形のそいつを、ゆっくりと脚の間にあてがっていく。 「そう、いい子」  柊介の尾骶骨に響く良い声に、亮介は自分の意思とは関係なく、勝手にローションを尻の穴に突っ込んだ。  グチョグチョになった柔らかいアナルに柊介のくれたエネマグラを入れた。  ガチャガチャ。  その音で我に返った俺は、自分のアナルに付けられているゴムバンドに目をやった。  前立腺まで刺激するように出来ている大人の玩具は、外そうにも鍵がついて外れない。  あいつの手の中でちゃりちゃりと飛び跳ねている鍵は、そのままズボンのポケットに落ちていった。  歩くのもままならないこの状況で、買い物とか悪趣味だろう。 「ほらもう行くよ。いつまでそこにいるの?亮介」 「煩いな!だから歩けないんだってば」 「そう、なら歩きたくなるようにしてあげるね」  最強のスイッチが入った。 「絶景」  柊介の大きな掌が、自称、不干渉の、プリっと上がった尻の肉をムンズと掴んでいた。 「んはぁ——————————————」  地獄の散歩のスタートだった。 「強すぎた?ごめんね」  強だったスイッチを弱にしてくれて、俺を抱き起す。 「ンなかわいい顔で、恐怖心を露わにするから、つい苛めたくなっちゃうんだよ」 「俺のせいだっていうの? 」  白い肌をうっすらとピンクに染めて、耳まで真っ赤で、お前のせいじゃなくて誰のせいなんだと、亮介は口を真一文字に結び、出来る限りの悪態をついた。 「お散歩行こう」  嫌だと口から出るものの、手を伸ばして俺を呼ぶ柊介のでっかい手が、胸の奥に湧き上がる暖かな感情に支配されて、何ともたまらなく嬉しかった。 近くのスーパーまで買い物に来て、無音の高性能で、微弱ながらも良い所に当たり続ける玩具に、気持ちがいかないかと言ったら、噓になるけど、肉も見たいし野菜も見たいし魚だって見たい、反応して勃っちゃってるチンコはぎりぎりシャツに隠れていたから、柊介にはバレていない。  ただこのエネマグラ、前立腺を小刻みに刺激し続けるから、そろそろ限界だった。 「亮介、ひき肉安いよ。今日の夕飯ハンバーグ食いたいな」  能天気な顔を見ながら、パンツの中は先走りでグッショリと濡れていた。 「付け合わせは何がいい? 」  喋る時は締めてないといやらしい息が漏れてきちゃう。 「ポテト! 」 「柊介お前ほんとポテト好きだよね」 初めて亮介に会った時、つまり亮介が経営するカフェに柊介が客として行った時、睡魔に引き込まれて朝になって、もしかして自称ドエスのくせに、こんなかわいい奴にやられちゃったのかって、ぐるぐると考えていた黒歴史。あの時もメガ盛りポテトだった。 「人参も、あとインゲンに豆のトマト煮も作ろう」 「インゲンも豆だよ。トマト煮はいらなくないか? 」 「どっちもいるよ。食いたいから」  柊介のわがままに渋々付き合い、ミックスのボイルビーンズに手を伸ばした。手だけで取れる所に無い豆は、ほんの少しだけ腰を曲げる動作が必要になった。いくらズボンでも尻を突き出せばエネマグラの形が、浮き出てくる。後ろから人に見られたら、イヤらしい自分がバレそうで、なるべくお尻を隠すように豆を取ろうと膝を曲げた。その時、微弱で悪戯されていたエネマグラが、亮介の穴で大きく暴れ始めた。亮介は恐々と後ろを振り返り、柊介の顔を見た。口元だけがいやらしく歪んでいた。小刻みに揺れる腰と、内股になっているいかにもの歩き方に、周りの視線と口元が、がニヤニヤと男の尻に集中しだした。 「やめろってば」 「ん?何をやめて欲しいのか、はっきり言わないとわかんないよ。ほら、みんなが見始めているよ」 「全部作るから。お尻の————エネマグラ、もう止めて下さい」 エネマグラの埋め込まれた尻が、良く見えるように、柊介の手は亮介のシャツを持ち上げた。 「あのケツ、見てみろよ」 「お仕置きかなぁ。ちょっと盛り上がっているよ。わお、すっげぇ。なんか入っているな。見せてほしいもんだぜ」  外野の雑音が、一言一句耳に響いて、うつむいた顔から涙が出そうだった。  その様子を見て満足そうに笑ったかと思えば、やっとの事で捻り出した言葉に、あいつが言った返事。 「ご褒美だよ。ここで逝きな」  バイブレーション機能を最大限に引き上げて柊介は言った。  その場でしゃがみこんだ俺に手も貸さず、酒の棚を物色している。 「サイテー」 「誉め言葉だ。他に言う事は」 「別にない」 拗ねて見せるっていう、ささやかな抵抗なんか意味もなく、あいつはポケットの中でスイッチをあげていった。 トイレに逃げ込めば、亮介はぼうっとする頭で必死になって考えた。 一人になれればどこでもいい。逃げる様にトイレに向かった。ビールを見ている柊介まではもう歩けない。こんなスーパーの往来で崩れるわけにもいかない。大人としてのプライドだけが、今の亮介を支えていた。 「あった」 トイレの扉に手をかけようとした瞬間、今までのは、最強じゃなかったのかよと泣きたくなる様な振動が、アナルを襲った。 亮介を支えていたわずかばかりの糸は切れ、その場で膝から崩れ落ちた。 「大丈夫ですか?」 ヤバイッッ、誰にもバレたくない。高性能で無音だから音ではばれない。だからお願い、近づかないで。 「大丈夫で……す」 敏感な奴なら匂いで解るくらい、精液を体にまとっているような気がした。 「ねえお兄さん? 」 「おなか……痛いだけだ……から……気にしないで……」 とにかく一人になりたくて、大丈夫だと言い切った。 コツコツ、と音がする。目線だけを向けるとハイカットのバッシュが目に入った。 「どうしたヒカル」 「順ちゃん、この人おなか痛いんだって」 「医務室とかないのかなー」 俺は慌てて腕をつかみ首を振った。 「大丈夫です……」 冷汗は出ているし、息は少しづつ荒くなっているし、本当に絶体絶命。何とか立ち上がるとトイレの取手に手をかけた。 後2歩で中に入れる。 「お腹ねぇ」 順ちゃんと呼ばれた青年は、亮介の顔を見るなり言った。 「カフェのマスターでしょう? 」 え?お客様?最悪だ。涙が出そうになるのを必死にこらえ意識を保った。 「順ちゃん知り合い? 」 「お前の兄さんの友達じゃん! 」 くりくりした目はさらに大きくなり、両手でポンと手をたたいた。 「どっかで見たことあると思った。ならトイレまで抱えてあげようよ。順ちゃんなら支えられるでしょ? 」 「あぁいいぜ。ヒカル、扉開けて」  トイレの扉があいた。 後は出ていってくれたら。 『ガチャリ』 亮介は慌てて顔を上げた。 小さな少年の方は、びっくりしてオロオロしていたが、細めの怖そうな青年は壁に寄りかかって俺を見ていた。 「ヒカル、もし中で倒れたら助けられないだろ?だからトイレが終わるのを、ここで待とうぜ」 「アーそういう事?びっくりしたよ。僕、 順ちゃんが何かするのかと思った」 ドキドキしたとばかりに胸をなでおろす。 「なんもしねーよ。でもまぁそのお兄さんが、そもそも自分でズボンを下せるのかって話だよな」 いやらしい笑いを浮かべ、ヒカルにズボンを下すのを手伝えと、命令した。 「やめて、出ないから」 「やれ!ヒカル」 ヒカルは真正のマゾだ。命令は快楽。 「了解。ご褒美頂戴ね」 「ああ後で沢山かわいがってやるから、まずこのお兄さん、トイレに座らせようか」 亮介はバレテいると直感が働き、逃げようとヒカルの手を振り切った。 「おっと。そうはいかない。そのままじゃぁ、辛いって」 ヒカルはまだポカンとしている。 「すでに出てんかもしんないけど、もうちょっと出るでしょ。ヒカル、抑えていてやるから、そいつのベルト外してやれよ」 俺は順ちゃんの命令通りベルトに手をかけた。 「ダメ————————————」 ずり下ろされたズボンの下からは、何やら怪しげなゴムバンドのような物が出てきた。 「まじ?これ貞操帯だよねー」 「順ちゃんこれどうなっているの? 」 ヒカルは目を輝かせて股間についているそいつを、まじまじと見ていた。 「こんな感じになっているよ」 大きなきつい目をした、順ちゃんと呼ばれる青年は、俺のアナルに嵌まっている、エネマグラがよく見える様に、片足を持ち上げた。 ヒカルという少年が興味本位でアナルに触る。ほんの少しばかり楽しそうだ。 「自分のじゃない奴に入れる事なんか無いもんなぁ」 「順ちゃん、言い方」 慣れないヒカルの手が、無理やり少しだけ引き出されたエネマグラを、また無理やり押し込みに来たもんだから、痛みで亮介は泣きそうになって叫んでいた。 「助けて、イヤだよ。柊……介」 最後の方はもう声になっていなかったと思う。 ビール売場にいたあいつは、今頃探してくれているだろうか。それとももう玩具には飽きて、別の玩具、物色しに行っているのだろうか…。 「ドンドンドン」 扉がすごい勢いで叩かれた。 「今入ってまーす」 間延びした青年の声に、怒りを露にするように声が被った。 「蹴破るぞ!開けろ。クソガキ」 実際すごい音でドンと蹴られたような振動が走る。 「開けようよ!開けるよ、僕」 「待てよ、ヒカル」 順平の言うことも聞かず、びびったヒカルが扉の鍵を開けた。 その瞬間、バン!凄い音で開くと思った俺たちの考えとは裏腹に、そっと静かに鍵が閉められた。 「助けを呼ぶのがおせーよ! アホ」 帽子を深々と目深に被り、サングラスをした男は、湿気で毛先がくるんとなっている。 その男は俺達を無視して歩き、順ちゃんの所に真っ直ぐ進んだ。 「相澤!人のものに手を出すとは良い度胸じゃねぇか。黒耀にも同じ事すんぞ」 「えっ柊ちゃん? 」 ヒカルと呼ばれた少年はびっくりして、目をあけたまま身動きできずに立ち尽くした。 青年は両手を軽くあげ、降参のポーズだ。 「悪い、柊介。おふざけが過ぎた。殴れよ」 さっきの青年がどうぞとばかりに顔を出す。 亮介は慌てて柊介に抱きついた。 「ごめん、大丈夫だから、何にもされていないから。殴っちゃだめだよ、柊介」  動けもしないその体で、必死になってしがみつく様に、柊介は、握った拳をだらりと垂らした。 「亮介、お前」 「俺が最初からトイレに逃げ込もうなんて思わずに、お前の所に行けば良かったんだから」 ギューっとしがみ付く力に熱がこもる。 「許してあげて」 涙目になりながらも懸命に哀願する。だって友達だったんだろ? 「だめだ、俺なんかの為に喧嘩なんかしちゃだめ」 アナルの振動にも耐えられず、しがみつく手もずり落ちそうになりながら、バカみたいに一生懸命懇願した。まるで何かにとりつかれたようであった。 「お願いだよ、柊介」 柊介は俺をお姫様抱っこの状態で抱えて言った。 「亮介に免じて今回だけだ、相澤。お前も補食する側なら、自分の者に手を出されたら許せないだろう? 」 「ああ、本当に悪かった」 トイレの扉をあけて、亮介をかかえた柊介は出ていった。 「びっくりしたー、殴られないで良かったね。ああ見えて切れたら止まらないからさ」 ヒカルは相澤の頬をすりすりしながら、自分の穴に手を当てた。 「俺もあれ、欲しい」 「ああ————」  相澤は視線の先に映る柊介が、小さく見えなくなるまで、黙って見つめていた。 「順ちゃん——————」    ♢ 車に乗り込むと、亮介はチラリと恋人を見た。そこには明らかに不愉快ですと書いてある顔をした柊介がいた。 「なぁ、まだ怒ってるのか? 」 「怒ってない」 そう言う柊介の顔は、やはり憮然としていた。 「やっぱり怒っているじゃないか。俺が我慢できなかったからか? 」 「だから、怒ってないって言っているだろ」 運転席で、ハンドルに当たり散らす段階で、柊介は確実に怒っていると言っても、過言ではない。 「そりゃ、俺にも隙はあったし悪かったって思っているけれど、実際何もなかったんだし、んなに怒んなくてもいいだろう」 泣きたくなってきた。 「そうじゃない。本当に怒っている訳じゃない。そうじゃなくて、もっと早く呼んでくれるって思っていたんだよ。それなのに、お前ってば全然呼んでくんないし。もしかしたら……中でよろしくやってんのか、とかチラッとでも考えて……」 「はぁ? 」 「ごめん。本当にごめん。恐かったのは、お前なのに、呼んでくれないってバカみたいに拗ねて。大切な恋人をチラリとでも疑った。俺はただ……そんな自分に腹を立てていたんだ。お前に怒っていた訳じゃない」 可愛すぎる恋人に、亮介の手が自然に伸びた。 つまり、もっと早くに自分を呼んでくれると思っていたのに、自分って俺にとってその程度?ってしょげて、あまつさえ浮気を疑った自分を、最低って思ったって事だろう。 やばい。可愛すぎる。バグしたいし、キスしたい。 亮介は助手席から、運転席で凹んでいる柊介の胸元を掴み、柊介のぽってりした唇に甘噛みをした。 不意打ちのそのキスで、自分の声とは思えないような、裏返った声にびっくりし、柊介は慌てて手で口を塞いだ。亮介は慈しむように、視線を下げて喉仏にキスをした。 「亮介……怒ってないの? 」 「怒っているよ」 シュンとなってシッポまで内側に巻き込んだ様な、どうしようもない恋人に、亮介は耳元で囁いてやった。 「甘やかしてやるよ。俺の事が大好きなお前を……」  ————居なくなって生きていけないの、お前だろ?柊介。 「したい。早く帰ろう」 「うん」 柊介は車を走らせ一路自宅へ向かったのだった。   ◇ その頃トイレに残された二人は、ラブラブの二人にあてられ、順平のチンコをアナルに咥えながら、抱き合うように見つめあった。 「柊介、怒ってるかなー」 ヒカルがいうと順平は笑って、あいつ二重人格だぜ?と言った。 「二重人格? 」 「そうさ、普段のアイツはあんなじゃないからな」 携帯を取り出した順平は、柊介から送られてきたラインの画面を開け、ヒカルに見せた。 今度はヒカルと亮介を二人並べて、エネマグラいれようぜ、と書いてあった。 「まじ、死ねよ、あいつ」 「でも興味あるだろう? 」 柊ちゃんも大概だけど、順ちゃんも相当だよね。 並んでアナルにエネマグラ。イヤらしい響きにそれだけで既に逝きそうだった。 「んっんはっ」 順平のキスが鎖骨を舐める。 「僕が鎖骨、弱い事知っていて……」  親指と人差し指で、感度が増した乳首を摘まみ上げながら、ゆっくりといたぶるように強く引っ張った。 「あっ乳首、それ以上引っ張っちゃ駄目。逝っちゃうよ、お願い。ねー順平、乳首ばかりコリコリしないで、ここ、ここに順ちゃんの大きいチンコで奥まで擦って——————————」    ♢ 「落ち着いた? 」  柊介は亮介の額にキスをすると、後ろから優しくバグをしてくれた。柊介をゆり椅子変わりにして、座っているみたいだ。 「腹減った————」  こんな我が儘をボソッと言っただけなのに、亮介ってば「ちょっと待ってて」って、おはよう、顔あらってくる位の気軽さで、ご飯を作ってくれる。 「俺、もしかして餌付けされてんの? 」  しばしの沈黙のあと亮介はしれっと言った。 「バレた? 」  チャイティーが好きな亮介は、この前神戸の友達からチャイティーミックスのスパイスを貰ったとかで、美味しい紅茶をいれてくれた。アイスがいいなって、七面倒くさい我儘を言ったのに、すんなり通ってしまって、今俺の目の前にはアイス・チャイ・ラ・テと小腹が減った用のローストビーフサンドがある。 「ローストビーフなんてどうしたんだよ」 「この前柊介、テレビのローストビーフをガン見していて、その日の夜、寝言でローストビーフ食べたいって言っていたから」 「で買ってきたの? 」 「作ったの! 」  亮介を抱えながら器用にローストビーフサンドを手に取ると、一口食べながら言った。 「ひゅひゅっひゃひょ?」 「食い物口に入れて喋るな! 」 流石カフェのオーナーだけあって食のマナーは死ぬほどうるさい。 「ひょひぇん」 「だーかーらー、何言っているか解らないんだよ! 」  でも今回の事で、俺は柊介を少しばかり理解出来たし、それに、とても良く解った事がある。  ——俺達の関係は思っていたより恋人で——  ——思っていたより愛されて——  ——思っていたより俺もずっと好き—— 「なあ飯くったら一緒に風呂入らない?背中流してあげる」  俺がそう言うと、柊介のでかくて可愛い目が、更に垂れて、なんか嬉しそうに「うん」って言った。 「髪の毛洗ってあげたい。いい? 」  ——柊介ってば、本当に俺の事好き過ぎだよ。  
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