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プロローグ
『おにーちゃん』
『はやとお兄ちゃん…待って……』
カーテンの隙間から差しこんだ光は彼の目を刺激し、あまりの眩しさに目を覚ました。
「いってー」
ベッドから落ちた腰をさすり、台所に歩き出す。
冷蔵庫からブラックコーヒーのペットボトルを取り出すと、昨日買ったカクテル用のでっかい氷をカランと1つ、綺麗なグラスに入れた。空は澄み渡り真っ白い雲一つない青だった。
西城大学一年文学部史学科、明石柊介。
今日から晴れて大学一年生。大学まで小一時間という、それなりな距離にわざわざ住む理由……。
そんなの一択だ。
夢にまで見るお兄ちゃんこと、三島隼人に会いたい。
ところがだ!いなかった。いなかったんだよね……。
この街に引っ越してきたのは五日前。荷物の片付けもほっぽり出して勿論探したさ。でもお隣さんは既にマンションになっていて、もうそこにはいなかった。
ピピピピピピ
「やべ、遅刻する」
柊介は大急ぎでタンガリーシャツを手に取ると靴をつっかけて外に出た。
「あら、おはよう。今日から学校?」
「あっはい……」
社交辞令とかすげぇ苦手。近所のばーちゃん良くしゃべんだよ。
「朝ごはん食べたのけ?」
「や、寝坊して、食ってねっす」
俺はぺこりと頭を下げた。
「ちょっと待って。これ持ってて」
いうが早いか扉の向こうだ。俺は渡されたほうきを手に、あっけにとられってばーちゃんが返ってくるのを待っていた。つっかけでパタパタと足早に帰ってくる。
「はい。これ食べなさい」
めちゃくちゃでっかいおにぎり、しかも三つも。
「ばーちゃん、サンキュウな」
久しぶりに笑った気がした。
【西応大学】
正門ってでっけーわ。大学入試の時は、んなこと考える余裕なんかなかったし、部活とかどーすっかなー。
「よう、柊介」
誰かが俺を呼んでいる?振り向くまでもなくあいつらだ。
「順平、黒曜」
相変わらずつるんでんのかよ。
「仲いいこって」
「なんだ羨ましいのか」
「んなんじゃねぇし」
「はいはい。なぁ柊介、今週末入学パーティーするんだけどお前も来ない?」
相澤順平と黒曜ヒカルは高校の時の同クラだった奴らだ。
「どこでやんの?」
「ヒカルの兄貴の友達が趣味でカフェやってんだって。そこを営業後20時から貸してくれることになった」
「飯は?持ち寄りとか嫌なんだけど‥‥‥」
心底嫌そうな顔をしたんだろう。順平はもともとデカい目を更にでかくして俺のほうに向け鼻で笑った。
「大丈夫だって、その人がいくつかは用意してくれるし、俺も持っていくしな」
「大丈夫だよ,順ちゃんに任せておけば、俺だって何にもできないし」
かわいい声して、僕は何もしません発言にしか聞こえない。
今なら聞いていい気がする。むしろ今しかチャンスがない気がした。
「なぁ」
俺は清水の舞台から飛び降りた気分だ……。実際飛び降りたことはねーけどな。
「なんだよ」
「お前らって」
「ん?」
黒曜、おまえ、首を傾げんな、首を。いくら細くても一応男だろ?ついてるもんついてるよな……。
勿論ホモ差別しているわけじゃない。そもそも俺がガッツリそっち側だし、そうじゃなくて単純に、羨ましい。
「そういう関係?」
俺は聞いた。
「どういう関係?」
質問に質問で返してんじゃねーよ、馬鹿順平!俺は頭をワシワシ掻きむしった。
「いやだから」
ニヤニヤしてんよ。こいつ!
ぜってー解ってる。
「ぅぜっっ、もういいわ」
「わーるかったって、柊介ちゃーん、そう、そういう関係だよ」
「順ちゃん」
黒曜の耳まで……ヤバいこいつめちゃくちゃ可愛い系?元々小さくて細くて目がくりくりして、見た目だけじゃないとか、ずりいな。
「大丈夫だよ。同類だし、ってか俺のだから、ガン見するな」
黒曜が順平の腕にしがみつきながらポカンと口を開いたままだ。
「開いてる、開いてる」
順平の人差し指が黒曜の唇をツンツンする。
やめろ、俺の前で……。
欲求不満なんだよ。
勃つじゃねぇか。
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