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「労働?」
リゼの言葉を繰り返して、リッカは嫌な予感に眉を顰める。何かを企んでいることが丸分かりのリゼが窓辺を離れリッカへと歩み寄ってくる。リッカは思わず後ずさった。しかし、すぐに本棚が背中に当たってそれ以上下がれなくなる。壁際に追いつめられたリッカを上から見下ろしながらリゼは楽しそうに笑った。
「氷精花を育てたいのだろう? だったら私の研究を手伝うと良い」
「け、研究ですか?」
「ああ。あることを思いついた。その実験がてら、君の頼みに協力してやろう」
「一体何をするのですか?」
リゼが協力的になってくれたのはありがたいが、素直に喜んでもいいのだろうか。リッカは不安そうな目でリゼを見上げた。
しかし、そんな彼女を気にする風もなく、リゼはリッカが背にしている本棚から分厚い本を一冊引っ張り出すと、それをポンとリッカに放り渡す。慌てふためきながらリッカはその本を手にした。表紙には見覚えのある薬草の絵柄がいくつか描かれている。それは、薬草に関する様々なことが書かれた専門書のようだった。
不思議そうにその本の表紙を見つめる弟子の様子を楽しむかの如く目を細めながら、リゼは口の端を上げはっきりと言う。
「その本ならば、氷精花の栽培方法が記載されているかもしれん。こちらの準備が整うまでに、君には必要事項を調べ上げてもらおう」
リゼはリッカに有無を言わせぬ口調で一方的にそう告げると、彼女の返事を待つことなく背を向けて工房の外へと出て行ってしまった。そんなリゼの背中を見つめながら、リッカは呆然と手元の本を握りしめる。
しばらくの間呆然としていたリッカを我に返らせたのは、のんびりとした声だった。
「ちゃっちゃと始めんと、すぐにリゼラルブが戻って来てまうで」
リゼの使い魔であるグリムがじっとリッカを見つめていた。先ほどまでは定位置であるソファの上で居眠りをしていたはずなのに、いつの間にかリッカの足下へとやってきていた。確かにグリムの言う通りだ。リゼは仕事が早い。どこへ行ったのかは知らないが、すぐに戻ってくるかもしれない。リッカはソファに腰を下ろすと慌てて本を捲り始めた。
リッカが本を読み始めると、グリムもふらりと工房の外へ出て行った。リゼに報告に行ったのかもしれない。リッカは頭の片隅でそんなことを考えながら本を読み進めた。
折よく、氷精花についての記載を見つけたリッカだったが、その内容にがっくりと肩を落とすことになった。
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