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「……確かにこの内容ならば君は供給者となる。いつでも氷精花を卸せるようにしなければならないだろう。だが、それが私の力を借りなければならない理由になるのか?」
リゼの当然の疑問に、リッカはコクリと頷いた。
「はい。氷精花は雪の日にしか採取出来ない貴重な植物だと思うんですけど、これを栽培する方法を教えて欲しいんです」
「はぁ?」
リゼは呆れた表情を浮かべる。リッカが何を言っているのか理解できなかった。リゼの様子を見て、リッカは困ったような表情になる。
「やはり栽培は難しいでしょうか?」
リッカの疑問に、リゼはますます訳が分からないといった顔をする。
「そんなことは知らん。薬草農家にでも聞け」
「え~。薬草農家の方ですか? わたしには知り合いがいないのですけど、リゼさんはどなたかお知り合いの方、いますか?」
リゼはリッカをジロリと睨む。
「君は、私にそんな知り合いがいると思うのか」
リゼの言葉にリッカはガックリと肩を落とす。
「……ですよね……」
リゼはもう自分には関係ないとでも言うように再び本を開く。しかし、すぐにパタンと音を立てて本を閉じてしまった。リゼは顎に手を当てて考え込む。
「しかし、氷精花の栽培か……」
リゼのつぶやきを聞いたリッカの顔がパッと明るくなった。
「何か心当たりがありますか?」
「いや、全く。ただ、あれがこの工房でいつでも手に入るようになるのはそう悪いことでもないなと思っただけだ」
リゼはそう言いながら立ち上がると執務机の横にある窓を開ける。工房の中は窓が閉まっていると暗いが、開ければ明るい日差しが入ってくる。リゼは窓の外を無言で眺めながら、しばらくの間こめかみの辺りをトントンと叩いていたが、やがて何かを思いついたようにリッカを振り返った。先程までと打って変わって、なんだか楽しそうに口の端を上げてニヤリと笑う。
リゼの何かを企むような嫌な笑みに悪い予感を覚えながらリッカが尋ねる。
「な、何ですか?」
「気が変わった。今回は私も君に協力しよう」
「ほ、本当ですか!?」
リゼの言葉にリッカは驚きの声を上げる。もともと助力を頼んでいたのでリッカにとってはありがたい話ではあるが、先程までとの態度の差についつい訝しんでしまう。
しかし、この気まぐれな師匠が気を変えた理由に思い当たる節がない訳でもない。不安そうな表情を浮かべるリッカにリゼは笑みを深める。
「ああ。私は、場所と知恵を提供しよう。労働は君の領分だ」
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