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源さんは腕のいい指物師。今で言う木工職人であります。 「ほら、でけた。でけました。はっは。初めてこさえたにしちゃ、たいしたもんやないかい。イスが欲しいなんてな、まさ坊のやつ、こまっしゃくれたやっちゃ。異人さんの真似がしたいんかな。どうれ、腰下ろしてみるで。はっは。こりゃ、ええイスや。我ながらええ仕事やな」 そこへ寺子屋から帰ってまいりましたのが、源さんの息子のまさ坊。 「ただいま。おとん、どないしたんや、座敷ん中でイスなんぞに座ってからに。戦の大将みたいやで。ぽわぽー。ぽわぽー(ホラ貝の真似)」 「なにゆうてんねん。ぽわぽー、ぽわぽー、てなんや。まさ坊が欲しいゆうたからこうして、朝から飯も食わず、こさえとったんやないかい」 「この乾いた大根の葉っぱがへばりついた椀は何やねん。僕は、イスが欲しいなんて、一言も言うてへんで」 「欲しいもんはなんや、ゆうたら、お前、イス、って紙に書いたがな」 「その、紙、みせえ」 「これや」
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