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「(紙を見て)これはイスやない。スやのうて、ヌや。斜めに棒が突き出とるやんけ。僕が欲しかったのはイヌやで」 「ああ?(と紙をひったくる)ああ?(と眺めている)ああ?」 「斜めに棒が突き出とるやろ、ゆうねん」 「こんなん。突き出とるうちに入らへん。男はもっと突き出なあかん。突き出てこその男や。わしなんかはなあ」 「おとんが突き出とるのはよう知っとる。これはカタカナのヌや。突き出るゆうても、こんなもんでええんや」 「(つばを指に付けてその部分を消す)突き出てへんやろ。ほら」 「何さらすねん。ああ。紙に穴が開いてしもたがな」 「あんな。まさ坊。寺子屋の偉い先生でも知らんこと、教えてやるで」 「なんや」 「ほら。このイス、見てみい。脚、何本ある?」 「四本や」 「イヌの脚は何本や?」 「四本やな。同じや」 「あんな。まさ坊」 「なんや」 「イヌもイスも、同じ動物がご先祖さんや。同じものやったんやで。イスだって生き物や」 「ああ?言い訳に事欠いて、あほなこといいないな。間違えたなら正直にそうゆうたらええやろ」 「だって。ホンマやもん」
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