（落語台本）イスの散歩

３

「僕は、わんわんゆうてイスが吠える所なんて見たことないで」
「わしはあるがなあ」
「僕は、はあはあゆうてイスが舌出して走ってるところも見たことない」
「わしはあるがなあ」
「嘘ゆうなや」
「ホンマやて」
「ほら、イス。お手、せえ。お手や」
「芸なんかまだ教えてへんやろ」
「ほら。お回りは？お回り」
「無理ゆうなて」
「あんな。おとん。このイス、散歩に連れてくで。ええか」
「あ？」
「このイスを連れてそこらを散歩するで、ゆうねん。脚が付いとる。歩くんやな」
「そら。あかん」
「なんでや」
「あかんもんはあかん。あほや、思われる」
「あ？」
「あんな。まだ、早い。かもしれない」
「まだ早いって、なにがや。イス連れて歩くのに年齢制限があるんかい」
「ちゃう。そのイスはな、さっき生まれたばかりやさかい」
「知らんわ。もう立っとるがな。僕、散歩に行くで、イス連れて。ほならな」