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「いにしえの書物を紐解けばな、イスは我々の心を癒すため、常に人の生活とともにあった、とある」 「おっちゃん、本なんか読んだことあるんか?」 「あるがな。十俵ぐらい読んだ」 「俵て、お米やあらへん」 「あんな。イスはな、古来より人と寝食を共にし、野山を駆け回り」 「駆け回り」 「人とじゃれあって遊び」 「なんや固そうやなあ。ぶつかったら痛そうやなあ」 「少ない食べものを分け合って苦楽を共にした」 「おっちゃんが、変になった」 「ホンマやて。本に書いてあったんや」 「僕をからこうてるんやろけどな」 「そんなことないで。イスには名前はあるんか?」 「イスに名前を付ける習慣がいつからあんねん」 「イヌと同じや。白い犬はシロ、黒い犬はクロや」 「ほならこのイスはなんや?」 「そやな。柄は木目やな。モクメでええんちゃうか」 「かなわんなあ。僕、行くわ。さいなら」
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