2、心の声に寄り添って

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 男性が帰ってもまだ部品を見続ける一哉さんを見ていると、彼は無言でレコードプレーヤーを抱えて作業部屋へと持っていった。 「あ、あの!何か必要なことがあったら呼んでください。そのために私が居るので」 「・・・ありがとう」  一哉さんの言葉に私は笑顔を返して頷いた。  彼は途中になってしまったぬいぐるみを物凄い集中力で一気に仕上げた。そして私はそれを商品棚に並べるように頼まれた。  子供の目線の高さに、おもちゃ等が並んでいて私はその横にぬいぐるみを置く。つぶらな瞳が可愛らしく、つい微笑んでしまう。ぬいぐるみをそっと撫でたあと、私は掃除に取り掛かった。  店の外をほうきで掃いていると、商店街の人達から声をかけられる。認識され始めたことが嬉しい。  最初は修理屋でアルバイトをしていると聞くと全員が揃って驚き、でもその後は『ついに一哉にも・・・』と恋愛を期待する目を向けられる。否定しても皆ニヤニヤとするため、否定することを諦めた。  外を掃き終わると、今度は窓を拭く。店の中に入り、はたきをかけていると靴に何かが当たる。しゃがみ込んで手に取るとネジだった。すると、 「・・・桜花さん?」  迷子になった子供が親を探しているときのような、寂しそうな声で一哉さんに呼ばれた。
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